9話 消せない過去
そこにはただ冷たい闇が広がっていた。この感じはどこかで覚えがある。
そうだ。これは、夢なんだ。
「セーレン・ハイル、あなたよね。この夢を見せるのは」
『……気付いていましたか』
「まぁ。なんとなく」
『……』
「ね、セーレン・ハイル」
『はい』
「この世に完全なモノなんてないよね」
『……? はい』
「君を使うと精神や身体が削られていく様な感じがする」
『それは……』
「それは君が私を……精霊の王の力を制御する存在だから。違うかな」
『──』
「精霊を支配するということは、世界を支配するということ。アムリアは貴重な存在だけど、世界を破滅に導きかねない危険な存在でもある……と私は思うんだけど」
『その通りです。アムリア』
「わたしの事はコウと呼んでもらえる? アムリアと呼ばれるのは慣れないの」
『はい、コウ……』
「ありがとう。これで判ったよ、私は剣に対してど素人なのに、セーレン・ハイルを渡された、その意味が」
『コウ、確かにあなたの言う通りアムリアは幸も不幸も呼ぶ危険な存在です。ですが、あなたは違う』
「違うかなぁ」
『私は今まで何人ものアムリアを見てきました。あなたはその誰とも違う。人を、世界を愛する心をお持ちです』
「そんな大層なもの持って無いよ。私は……普通の人間だからね」
『……』
「とにかく、これからもよろしくね。セーレン・ハイル」
『はい、どこまでも……』
最後に、姿も何も見えないけれど、優しく笑った様な気がした。
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