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9話 消せない過去

「……危うい?」

 リセイは顔を顰めた。カルロの言葉には『誰が、何に対して』という部分が抜けている為、よく判らない。しかし構わずカルロは続ける。

『コウは何も知らない、知らなくて当然だ。だが……それではこの世界を生き抜く事は出来ん』

「カルディアロス……お前……」

『出来ることなら大切に守り、危険から遠ざけ……人の欲に触れること無く過ごさせてやりたい』

 カルロは苦しそうに顔を歪ませる。今回の事で証明された。コウがアムリアでいる限り、彼女に平穏な生活はありえない、と。それどころか欲にまみれた人間どもに操られ、掻き回され……
 心も、体も、傷つけられる……。

『コウは王で居るにはあまりに優しすぎる』

 カルロの悲痛な思いが僅かに部屋に響いた。それを聞いたリセイは、カルロが最も恐れていることが理解できた。

「そうだな……大きな力を持つなら負う責任も大きい。それに潰される事もある」

『だから私は命をかけて守ると決めた。なのに……』

 ――守りきれなかった。

「それは……仕方が無いだろう。お前は十年前のあの日、死んでもおかしくない程の力を使ったのだから」

 リセイはカルロを落ち着かせるようにゆっくり話す。だが、カルロの動揺しきった心中は収まることはなかった。

『リセイ……私はな、封印を解こうと思う』

「…………なに?」

『そうすれば何者にもコウを壊されることはない』

「何言ってる、お前はまだ完全に回復しきってないんだぞ!?」

 リセイは珍しく声を荒げた。少し驚いたように反応するカルロだが、意見を曲げるつもりはないらしい。



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