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9話 消せない過去
「ほんの少し……興味を持っただけだと思っていたんだが。まさかこうも心が落ち着かないとはな」

 初めに沈黙を破ったのはリセイだった。それは誰に放った言葉なのか……。コウの事を言っている様だが、本人はまだ目覚めていない。かといって、この部屋に他に人は居ない。
 それに応えたのは、小さな緑の精霊だった。

『私も同じ気持ちだ……。不思議なものだな。惹かれる理由が未だによく判らない』

「そうか、カルロ……お前も……」

 リセイがそう言いかけた時、すかさずカルロの訂正が入る。

『お前に「カルロ」と呼ばれるのは変な気分だ。普通に呼べ』

 冷たく放ったように見えたカルロの言葉に、意外にもリセイは顔を緩めた。目を細め、昔を懐かしむようにカルロを見る。そして、カルロの言う『普通に』を、素直に実行した。

「では、カルディアロス……。こうして話すのは何年ぶりだろうか……。ひどく昔のことの様に思える」

『もう十年も前の事だ。それにお前はまだ幼かったからな』

 人形の様に可愛らしい精霊から発せられた言葉は、その姿とは随分かけ離れたものだった。しかしリセイはそれに違和感を感じることなく、普通に会話を続ける。

 樹の精霊 カルロ

 本名 『カルディアロス』

 彼はずっと前からリセイを知っている。それは昔、カルロが帝国に居たことを物語っていた。

『今回の事は、私の所為なのだ。コウを森へ連れて行ったのは私だからな』

「風の精霊に会わせたかったんだろう? 東国のことはお前の所為では無いよ」

 落ち込むカルロに優しく声をかけるリセイ。カルロはリセイの方に目をやり、真剣な表情で話す。

『リセイ、お前がコウを見つけたのは偶然か?』

 急な事に、質問の意図を理解しきれなかったリセイだったが、はっきりと答えた。

「ああ、偶然だ。私がフレアンとして街の警護をしていた時に、たまたま出会った」

『そうか……』

 リセイの返事を聞いたカルロは、ゆっくり俯く。何かを考え込んでいるその様子に、リセイは心を読み取ろうとした。だが、カルロが先に言葉を放った。

『コウは非常に危ういとは思わんか?』



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あきゅろす。
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