騎士の集い07
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森の中を黒馬に乗り駆けていたリセイの前へ何者かが飛び出した。
先に人の気配を感じていたリセイは、慌てることなく静かに馬を止める。
それに習ってアモンや護衛兵も慌てて手綱を引いた。
隊全体が落ち着いた頃、リセイは目の前の男に声をかける。
「久しいな、アーク。こんな所でどうした」
漆黒の忍び服に身を包んだ男、アークは慣れた様子でリセイの前に跪き、顔を伏せたまま応えた。
「は。この度は帝国軍総としての来国だと聞いておりましたが、その事で一つ……」
「何かあったのか」
リセイは淡々と話す。
アークは再び深く頭を下げ、重々しく言葉にした。
「はい、現在東国軍がこの大陸に潜伏しております」
「東国!?」
リセイの代わりにアモンが声をあげて驚いた。
リセイの表情も明らかに先ほどとは異なる険しい顔になっている。
アークは続けて報告した。
「今帝国に貴方様が不在である事が知れれば、大変不利な状況になります」
「……そうか」
リセイはそれだけ言うと、少し俯き表情を曇らせた。アモンはリセイの方を向いて何か声を掛けようとするが、適当な言葉が思い浮かばない。
「報告ご苦労だった、アーク。先にティレニアへ戻り調査を続けてくれ」
「は!」
闇の使者は素早く森の奥へ隠れ、後には風の音がするだけだった。
アモンは馬を歩かせリセイに近寄ると、皮肉めいた言い方で囁いた。
「東国が、ね。最近変な動きしてたみたいだけど、まさかこっちに来ていたとは」
リセイは沈黙していた。
「……どうする? 今ならまだ間に合うけど」
森を抜ける前ということがせめてもの救いだった。
東西の大国が帝国へ侵略行為をしないのは、彼ら神軍の力が大きい。
正規軍と違ってリセイ達の詳細は明らかにされていないので、迂濶には手が出せないのだ。
もし神軍軍総と教皇が共に諸外国へ訪問していると気付かれたら、帝国本土は厳しい状況下に置かれるだろう。
溜め息を吐いたあと、リセイは後方に控える兵達に暫く待機するようにと命じた。
その場をアモンに任せたリセイは、何人かの兵を連れて森の奥へ入る。
そこで何をしているか、アモンには判っていたようで、久々に見るリセイの変装姿を心待ちにしていた。
──数分後。
「待たせたな。隊を組み直せ、出発する」
「おおぉお〜! やっぱりいいねぇ、リセイ君の黒髪姿!」
美しい銀髪が漆黒の色に染まり、黒のコートと黒馬を合わせた姿は男女問わず魅了した。
「ふざけていると置いていくぞ」
「ああ! 怒んないでっ俺が悪かった! リセイ……もとい、フレアン君!」
「……」
無言で馬を走らせるリセイに、アモンも慌てて手綱を取った。
「まあまあ、本当はちょっと自信なかったんだろ? いいじゃないか、衛兵フレアンでもさ」
誰にも隠していた心の中を覗かれた事に焦りを感じながらも、リセイは柔らかく笑った。
「コウが身分を気にするとは思えないがな」
自分の深緋色の目を見た者は皆畏れを抱いたというのに、あの少女はただ真っ直ぐ見つめ返した。
何者にも汚されてはならない領域を彼女は持っていた。
「お前が一人の女に興味を抱くなんて珍しいね」
そんなアモンの嫌味を易々と受け流し、ティレニアに続く道をひたすら駆けていた。
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