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騎士の集い06


 ここは南大陸の北に位置する静かな海岸。大陸内部とは森で遮断されており、裏海岸とも言われていた。
 大洋に接していながらも大きな岩場が在ることなどから、波は静かに揺れている。

 普段は誰も利用しない場所だが、今はそこに商船が何隻か留まっていた。
 本来商船は大陸を南下しティレニアに近い所まで船を進める。
 だが、ここにある船は──。

「やっっと着いたかー、久しぶりのティレニアだぁ〜」

 腕をめいっぱい伸ばしながらそう吐いたのは金髪ロン毛の男。これでも帝国の最高司祭……教皇と呼ばれている。

 その男を横目で見ながら船を降りる男が一人。こちらは銀髪紅眼で、異常な存在感を漂わせていた。

「私も久しぶりだ。裏海岸を使った事は一度もないがな」

「あのね、当然だろ? 今のお前は街の警備兵フレアンじゃなくて、帝国軍総リセイ=オルレアンなんだから」

 アモンが強く言葉を返すと、リセイは「判っている」と言いながら微笑んだ。
 その表情を見て、呆れていたアモンも思わず顔が緩んだ。

「どんだけコウに会いたいんだよ。ま、確かに元気はもらえそうだよな、彼女になら」

「……」

「あ! 無言という事は『その通りでございます!』って事だしょ!?」

「変な言葉を使うな」

「あらら〜、ごまかしちゃって。お兄さんは嬉しいんだよ〜? 年頃の男の子らしくなっちゃって」

「……馬鹿にしているのか? アモン」

 リセイはふざけてばかりの司祭に静かな殺気を送る。びくりと反応したアモンは苦笑いで誤魔化そうとした。

「まあまあ、無事着いたことだし。微妙に嫌な風が吹いてるのは別として」

 アモンは手を翳して太陽光を遮った。砂浜は焦げる様に焼き付けられ、靴の上からでも十分火傷をしそうだ。
 海水が蒸気と化し水面の美しさが増す中、リセイは同様に煌めく銀髪を風で溶いていた。

「確かに何かが違うな。精霊達が静か過ぎる」

「お前でも見えないか?」

 こてんと首を傾げて問うアモンに、リセイは無言で返した。

「そっか。特異体質のお前にも映らないほど弱ってんのかな」

「──どちらかと言うと大きな力に畏れている感じだが」

「へえ……そりゃ面白そうだな」

 どこが? と言いたげなリセイだが、もうこの話に興味を無くしたアモンは空を見上げて鼻歌なんかを歌っていた。

 リセイは出かかった言葉を呑み、足早に浜を通過した。

 その他の護衛兵達は船を隠す者とリセイの護衛に就く者に分かれ、それぞれ散っていった。

 その行動の速さは、やはり普通ではなかった。

「俺馬なんか滅多に乗らないんですけど」

 浜からティレニアへ行くには浅い森を通らなければならない。
 アモンは用意された白馬に文句を言いながら手綱で遊んでいた。

「馬車では山道を通れない。楽ばかりしていると早く老けるぞ」

「うわぁリセイ君言うようになったね〜。おじさん傷ついちゃった」

「そうか。ならずっとそこに居ろ」

 本気で置いていくつもりの彼に慌てて、アモンは渋々白馬に乗った。

 彼らは馬に乗り換え颯爽と森の中に入っていく。目指すは自由都市ティレニア、又の名を最高軍事機関である中央司令塔。
 それはまさにコウがいるティレニア機関内の「本館」の事だ。

 そして──本館の奥で守られるようにひっそり建っているのが禁断とされている宮殿だった。



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