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騎士の集い02


つい先ほどまで馬鹿共に対する怒りを露にしていたのに、今はすっかり普通の少年の表情に戻っているコウを目にしてフェザールーンは息を潜めた。

初めて祭壇で見た時から、彼女には何処か惹かれていた。それははっきりと言えない曖昧な感情だったが、フェザールーンの意思を決定するには十分なものだった。

『風はいつも何処かで吹いている。穏やかな日溜まりの時に、または夜の嵐の最中に……風は留まることを知らない。だから我らは──』

月の様に自由に空から隠れることは出来ないのだと、風神はやわらかく嘆いた。

「それは……確かにそうかもしれないけど、精霊だって疲れたり悲しくなったりするだろう? 押し潰されないよう何かにすがったり立ち止まることも必要だと思うんだ……」

言いながら、今の自分が正にそうだと気づいた。
無知を武器に堂々と力を蓄えられる贅沢な今の状況。哀しいことを理由に逃げたとしても、きっと誰も責めたりしないという甘えがある。

『やはり貴女は……我らの王だ』

そう呟いた声が小さすぎてコウの耳には届かなかった。
聞き返しても、ルーンは首を横にふり、とても綺麗な笑顔を向けているだけだ。

コウは色の違う双方の目に魅せられてゆく。

『過ちは繰り返されるべきではない。たとえ世界に否定されても、私は引き下がりはしない、諦めたりしない。世界王アムリアのために、我ら風の精霊一族が世界に理知の風を吹かせてみせよう』

「フェザールーン……」

『それから王、私のことはルーンで結構です』

「……そう? じゃあ私もコウでいいわ」

『……私? ……いいわ?』

ルーンは首をかしげた。
コウ、とは女の名前ではないか? そもそもカイルと呼ばれていたではないか。どれが本当の名前なんだ? と。

ルーンの心の葛藤に気付き、私はまた苦い顔をして言った。

「何だ、精霊にも判らないんだな」

『え? どういう……』

「……私は女だ」

『……ええええっ!?』

「いや、そんなに驚くことじゃないと思うけど」

「コウ様、普通は驚きます」

「あ、クリス……そうかな?」

いつの間にか近くに来ていたクリスが話に割って入った。
あんまりルーンが驚くものだからこちらもおろおろしてしまう。

ルーンはきっと、王は男だと思って疑っていなかったのだろう。それにあれだけの剣術を見せられたのだ。強く優しい、立派な王だと思ったに違いない。

だが、冷静に考えれば、女だと気づかれてもおかしくはなかった。なんせコウの装は変装と言うにはあまりにもお粗末なものだったからだ。

声は高く、男であるには余りに華奢で、睫毛は長く肌白で……何と言っても顔形が女そのものだ。

精霊の規定でいうと女に分類されるルーンだが、しっかりとコウに見惚れてた。
相手が同性だというのにこうも惹かれてしまう、そんな奥底に隠れた不思議な感情を抱えていた。

「がっかりさせたかな」

『──まさか!』

それだけは力いっぱいに否定した。
ルーンもようやく頭の整理がついたらしく、コウの方を向き直り真剣に応える。

『私は貴女に付いて行くと決めたのです。性別など関係ありません』

ルーンはコウにすり寄る。そのままの姿では大きすぎるので今は抽象的な姿をとっているが。

子供くらいの大きさの金鳥に両手を差し出し、胸に収めて彼女を抱きしめた。

その温もりを何故か懐かしく感じ、ルーンは静かに目を閉じた。



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