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聖域と罠17


「やめろ!」

 祭壇に響いた声に、精霊はビタリと攻撃を止めた。風の槍はナティアの喉すれすれまで来ていたが、そっと離す。
 誰もが、静止した声の主の方を向いていた。ナティアが弱弱しく、その人物の名を呼ぶ。

「カイル……」

 彼らの前に毅然と立っている少年は、先ほどとは違い威厳に満ちていた。それはコウの本質ではなく、この場のバカ騒ぎに対する怒りが、彼女の周辺の空気を支配していたからだ。
 精霊は、ルクードの横を素通りし、風の槍を受けて倒れこんでいる2人の護衛の間を通り、コウの前へ降り立った。そして、最上級の敬意を示すお辞儀をし、コウの前で頭を垂れた。

『お会いしとうございました。我らが王、アムリア』

 その精霊の言葉に、行動に、クリス以外の全員が驚いた。クリスだけはいたって冷静に判断し、コウの元へ歩み寄り、彼女もまたひざまずく。

 先ほどまで、新米剣士だと思っていた少年が、今は最高司祭クリス・リーチェルに傅かれ、古の神に頭を下げさせている。ありえない光景だ。

 ――だが、誰もが納得した。堂々たる態度の少年。その眼に恐れなど無く、ただ精霊をみつめていた。


 コウはセーレン・ハイルを鞘に収めた。そして、ふうっと一息ついて、精霊に頭を上げるように促す。精霊はそれに従い、頭を上げる。コウは少しほっとした様な表情を見せた。

「随分と君の居場所を荒らしてしまった……すまない」

 コウはそう言って、にこりと精霊に笑いかけた。そんなコウを見て、精霊はもう一度丁寧に礼をつくした。

 頃合を見計らって、クリスは立ち上がり、コウに近づいた。そっと耳打ちする。

「コウ様、長居は無用です。ティレニアへ戻りましょう」

「……そうね」

 コウはそう応えると、スッとナティアの方へ歩み寄った。ナティアは、震えて泣いている。この現実が受け止められないようだった。コウは柔らかな笑顔を見せた。

「いや、私は……私がっ……!」

「ナティア、一緒に帰ろう?」

 コウは優しく言葉をかけた。ナティアは声を発することは無かったが、コウの声に落ち着かされ、縦に首を振った。そして素直にコウの言葉に従った。


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あきゅろす。
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