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聖域と罠12


「帝国の軍兵よ、ここまでだな」

 男はコウとクリスに向けてそう発した。先ほどとはうって変わって、優越感に浸る笑みを浮かべて。

「残念だったな、カイルとやら。精霊の王は我々の支配下にある。古の神が出でた今、お前達に勝ち目は無い」

「……」

 コウは無言で聞いていた。クリスは逃げる算段を考えていたようだが、何も思い浮かばない。

 ナティアはというと、東国兵達が「王だ、アムリアだ」と騒いでいるのを聞き、気持ちに余裕が表れだした。表情も落ち着いてきている。

 絶体絶命のこの状況で、更なる絶望を与えられたコウは、声も出なかった。その絶望とは突如目の前に現れた、4人の武人。彼らはそれぞれやる気のない文句や見下した言い方をしてきた。だがコウにもわかる。
 彼らは、相当強い。

「全く、詰まらぬ余興だったな」

「本当に」

「初めから勝負のついた戦いなど、無意味なものですね」

「てっとり早く俺が殺してもいいかぁ? みんなぁ」

「「「駄目だ(です)!」」」

 反対の方を向いていたクリスは突然4人分の声を聞き、驚いてすぐさま振り向いた。すると、男の両脇に4人の護衛がついていた。
 階段には自分達がいる。しかし誰も通っては来なかった。ここを通らず祭壇上に行くには、祭壇まで飛ぶしかない。

「まさか、こんな高さを?」

 実際に彼らは、祭壇の下から一足飛びで上まで上ったのだ。その跳躍力はもはや人ではない。目を丸くして4人の武人を見つめるクリスに、4人全員が気付いた。そして、

「あれぇ? こんな所に最恐コンビの片割れがいるぜぇ」

「あら本当、素晴らしい偶然ね」

「先の動乱でずいぶん世話になったからな」

「我々が好きに殺ってもよろしいんですか? ルクード様」

 4人は全員、男の方を向く。どうやら、東国の男は『ルクード』というらしい。しかも、この4人の態度からして、ルクードは随分地位の高い人間だということが伺える。
 ルクードは4人の好戦的な目を見て、「程々にな」という感じで笑い返す。すると4人のうち2人の男が前に出た。

「俺たちから行かせてもらうぜ?」

「あの司祭には報復せんと気が済まん」

 軽いテンションの男と、武士のような格好の男が残りの2人に言う。

「しょうがないわね」

「我々はルクード様に付いていますから、存分にどうぞ?」

 残された2人はルクードの方へ行き、彼を守るように後ろに立った。ルクードは4人の会話を聞いた後、もう一度古の精霊のほうに向き直る。ルクードがナティアを呼ぶと、直ぐに元気な声で返事をして、ルクードの傍へ走り寄った。


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