聖域と罠09
男は一度大きく深呼吸し、声を張り上げた。
「古の神、フェザールーンよ! そなたの絶対的存在、主であるアムリアを連れてきた! さあっ出でたまえっ!」
男の声は森に響いた。鳥達は一斉に羽ばたく。やがて森のざわめきは収まったが。
「? 何故だ……? 精霊よ! どうした!? お前の王がここにいるぞ!」
しかし、やはり反応は無い…。男は相当の混乱状態だ。
何故現れない? いくら自ら封印したとて、アムリアには何かしら反応を見せるはずだ。
何を思ったか、男はナティアの腕をつかみ、祭壇の端まで引っ張っていった。ナティアは自分がどんな状態か気付くと「きゃああぁぁぁっ!」と無意識に叫んだ。
男はその騒音で鼓膜が破れる思いだったが、泣きじゃくるナティアを思いっきり引っぱたき、静かにさせた。
恐怖のあまり、ナティアは泣き続けている。
下を見れば、気が遠くなるほどの高さに感じた。実際は10メートルほどだが、それでも混乱したナティアにとっては、城の頂上から落ちるほどの恐怖であった。
王の危機には必ずやってくる。そう思ったのだろう。
だがやはり水晶は変わらず浮かんだままだった。
いつまでたっても出てこない精霊に、気が狂ったかのように叫び続ける男。
それを見て、何とか男を止めたいレンだが、体が言うことを聞いてくれず、動けぬままだ。
その荒れ狂った惨状に気付いた人間が、二人。コウ達は漸く彼らに追いついた。
まずナティアを救出しようと、祭壇へ走り寄る。
その時……激しい耳鳴りと共に、目も開けれぬほどの強い光が水晶から放たれた。
男はとっさに顔を隠す。ナティアも両手で耳を塞ぎ、必死で耳鳴りに耐えた。
階段を上りかけていた二つの影は、その瞬間に頂上を見上げ、異変に気付く。
「何!? あの光…!」
「コウ様! フェザールーンが現れます! お急ぎを…っ!」
「わかった!」
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