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聖域と罠08


 男は不敵な笑みを浮かべ、更に先へ進んでいく。ナティアは、この男を恐ろしい、と思っていた。
 自分は精霊の王なのだから、殺されたりすることは無いだろう。だけど死ななければ、腕や足をもがれるかもしれない。そんな残忍なことを――この男はいとも簡単にやってのけるかもしれない。
 そんな恐怖が彼女の脳内を駆け巡っていた。

 広場を抜け、一本道を突き進んでいくと、木々が異様に規則正しく連なっていた。まるでどこかへ誘うかのように。
 木々の壁に囲まれた細道の先は、異様に明るく照らされていた。ようやくたどり着いたか、と思っていた男の視界に飛び込んだのは、巨大な祭壇だった。
 10メートルほどあるその祭壇からは、常に風が流れてくる。男は祭壇の頂点を目指し、一段一段登っていく。ナティアも後方に続く。レンは祭壇の付近の茂みに隠れていた。

 男は聖域であるにもかかわらず、躊躇い無く上っていく。上りきったその先には……――
 蒼天と見まごうほどの鮮やかな青をした水晶が浮いており、それは緑や白などにも絶えず変化していた。少々煩い耳鳴りがするが、男は気にせず水晶に近づく。
 ナティアは恐ろしくなって、一歩も動けなかった。

 ――精霊の、古の神の気迫に圧されて……。
 男はナティアに傍に来るように促す。それでも、彼女は動けない。「肝の小さい奴め」と雑言を吐き、素早くナティアの腕を引っ張った。ナティアの精一杯の抵抗も虚しく、水晶の前まで無理やり連れてこられた。

「いっ、やぁ……」

 ナティアはその場にうずくまる。片手で自分の体を力いっぱい抱いて。肩が震え、足はガクガクと落ち着かない。頭の中は真っ白で、何も考えることが出来ない。
 そんな少女の様子を見た男は、呆れて腕を放した。「所詮、こんなものか……」と呟く。だがそんな男の体も、少し震えていた。神の前に立つ自分が、あまりに小さく思えて……。離れた場所にいるレンでさえ、それ以上祭壇に近づく事が出来なかった。



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