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聖域と罠03


===ティレニア 裏門===


 ティレニア本館から奥へと進むと、ほとんど人気の無い建物がある。そこは宮殿と呼ばれ、普段は誰も入る事の許されない禁断の場所だった。極僅かの使用人も夜になると帰る為、夜の宮殿には執事がただ一人いるだけだった。

 宮殿の裏には厳重に守られた門がある。そこがティレニアの裏門で、その存在を知る者はほとんどいない。恐らくは上官と帝国の使者くらいだろう。そして利用する事はここ最近全く無かった。

 コウは裏門へ連れられ、かたく閉じられた大門の前に立っていた。すると、古びた金属音と共に扉がゆっくりと開き始める。それが何故か恐怖心を呼び起こし、私は肩を縮めた。その様子にクリスは少し微笑み、「大丈夫ですよ」と優しく声をかける。

 門が完全に開ききる前に、向こう側に人がいるのが見て取れた。クリスはその人間に親しげに声をかける。

「夜遅くにすまない、ダイス殿」

「いえ、クリス嬢の頼みとあらば、なんら構いませんよ」

「それと、紹介しておこう。今は訳あってこのような姿だが、この方はコウ様、精霊の王アムリアだ」

「──なんと!」

 ダイスと呼ばれた執事はアムリアの名に驚き、深々と頭を下げた。そしてコウの元へ歩み寄り、一礼して跪く。私は執事の行動に心底慌てたが、執事は気にせず話し出した。

「お初にお目にかかりますコウ様。私はリュートニア家に仕える執事のダイス・ケイストと申します。以後お見知りおきを」

「は、はい……リュートニア家とは?」

「リュートニア家は代々精霊の王となられる御方に仕える一族です」

「精霊の王に仕える一族? 代々って……」

「恐らく世界で一番古い歴史をもつ一族でしょう。初代は数千年も前の代になりますから」

「すっ! 数千年前!?」

 許容範囲をゆうに超える年月を突きつけられ、私の脳はカチリと固まる。ダイスはそんなコウの様子を見て愛しそうに微笑んだ。クリスもその場の和やかさから心を落ち着かせている様だ。

「さあ、中へ案内しましょう」

 執事はまた一礼し、コウ達を宮殿の中へと誘なった。



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あきゅろす。
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