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聖域と罠02


「クリスさん……?」

コウは恐る恐る尋ねる。茂みの奥に見える人影も、コウの声を聞いて何かに気付いたようだ。
雲に隠れた月が顔を出し始め、若干の月明かりに照らされた人影は少しずつその姿を露わにする。

そして顔の輪郭がはっきり見えるほど辺りが明るくなると、人影は白い服をまとった女性であることが判った。

修道士のようにも見えたその女性は、両の拳に重たそうな鉄拳を着け、大胆なスリットからは肌が見え隠れしている。
女性はコウの顔を確認すると、驚いたように声を発した。

「まさか……コウ様ですか!?」

「はい……」

「こちらにいらっしゃる事は存じておりましたが、まさか男装をなさっているとは……」

「あはは、色々とあってね」

クリスの指摘にコウは苦笑した。彼女も半ば呆れたように溜息をついたが、それには安堵の気持ちも含まれていた。

「どうしてここが?」

「あなたの帰りが遅いと報告がありまして、精霊を頼りにここへきたのです」

言い終わり、クリスはコウの膝の上で眠っている精霊に気がついた。

怪我をしているようには見えないが、相当衰弱している。それにコウの顔色もす優れない。何かがあったことは直ぐにわかった。

「コウ様、ここを出ましょう。夜の森は危険ですから」

「それが――」

コウは先ほど起こった事を、言葉足らずながらも必死で説明した。
不可解な出来事にクリスも深刻な顔をしていたが、東国という言葉が出た時は明らかに顔が強張った。

ある程度話したところで、コウは記憶を整理するため一息つく。

「それでは、東国から来たという男が、アムリアを探していたと?」

「はい。それから森で迷っていた同級生を見つけたんですけど、男は勘違いをしたらしく彼女を連れ去ってしまって……古の精霊の封印を解くと言ってましたが」

「な……! 古の精霊のことを何故……」

「わかりません。でも男は普通ではなくて……何か知ってるようでした」

クリスが押し黙る。
コウもどうしていいか判らず、気を落としたまま下を向く。暫くの静寂の後、クリスから言葉が発せられた。

「わかりました。ですが今日はこれ以上深追いするのは危険です。彼らは古の精霊には会えないでしょうから、夜が明けてからでも遅くはありません」

「そうですね……わかりました。一度ティレニアへ戻ります」

コウはようやく顔を上げ、カルロを抱きかかえたまま立ち上がった。
クリスは心配そうにコウを見つめながら、その背中を支える。

二人は静かに森の出口へと向かった。



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あきゅろす。
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