古の精霊10 数十分ほど歩いた所でカルロが急に立ち止まった。 「どうした?」 『……』 答える気が無さそうなので私も辺りを見て回る。 そう言えばカルロも森の方角を全ては把握出来てない様で、たまにこうやって立ち止まって考え込んでいた。今度もそうなのだろう。 ところがカルロは血相を変えて飛んできた。 『下がってください……早く!』 カルロの声は私の耳に届いたが咄嗟には動けなかった。 訳が分からず、ただ突っ立ったままだった。 カルロが突撃してきたと同時に嫌な音が聞こえた。 ……だが自身は痛くも何とも無い。確かに何かが刺さったような音がしたのだが。 そっと自分にしがみついている精霊に触れた。 カルロの背中が…ヌルりとして、熱かった。自分の手についたカルロの血を見て、カルロが刺された事に気付く。ナティアもカルロの傷に気付き、「きゃあぁっ」声を上げた。 「……カルロ!?」 『マス……ター……』 「なっ……何が……どうして!?」 『逃げ……て……くださ』 「何言ってる! それより止血を……」 カルロの背中から容赦なく流れ出る血液に、コウは目眩がした。だが、躊躇っている暇は無い。早く手当てをしなければ、いくら精霊だからといっても危険だ。コウは鞄からハンカチを取り出して出血部を抑える。が……うまく止血できない。 「ナティア! ちょっと抑えてて!」 「えっ!? いっいや! 無理よぉ!」 「いいから早く!」 コウが叫ぶと、ナティアはビクリと肩を震わせ、ゆっくりとハンカチを抑えた。その間にコウは自分のマントを脱ぎ、汚れを払いのけてカルロに巻きつけた。これで少しは血が流れ出るのを抑えられる。そう安堵した時、思いもよらない事態に目を疑う。 カルロに被せた布に絶えず染み続けていた赤が、それ以上濃くなる事無く止んだ。 「血……止まった……?」 コウはマントを外し、傷口を見る。必死で抑えていたが別に治療をしたわけじゃないし、数分で治るような傷でもなかった。それなのに。 「うそ……もう治ってる……」 「ほんとだぁ」 コウの目には、傷一つ無いカルロの背中が映る。ふいに地面に放った小刀を目をやるが、確かに血は大量に付いている。なぜ…… 「さすがだな、これがアムリアの力か」 どこからか知らない男の声がした。コウは辺りを見回すが、どこにもそれらしき姿が無い。急激な不安がコウを襲う。 こんな森の中、町人がいるわけがない。カルロは傷は治ったが、まだ気を失ったままだ。コウはセーレン・ハイルを握り締め、唇をきゅっと噛んだ。額には暑くもないのに汗が流れる。 「誰だ……?」 ←前へ|次へ→ [戻る] |