古の精霊09
ああ、もう勘弁してほしい。そういえば私、今は少年カイルであってコウではないんだった。知られても別に問題はないが、この子、何故か好きになれない。このまま隠し通せるか心配だった。
そんなコウの不安も他所に、少女はしきりに話しかけてくる。カルロは黙ったまま、コウのうしろに隠れていた。普通にしてても見えないが。
「私はナティア、ナティア・ソルよ。ナティでいいわ、あなたは?」
「あ、俺は……カイル」
「そう、カイルね、よろしく!」
「ああ……(いきなり呼び捨てか)」
コウはもうぐったりしていた。恐らくコウの一番苦手なタイプなんだろう。
「それより、何しにここへ来た?」
「あっ……と、その……」
「何だ?」
コウは手っ取り早くナティアを追い払おうとしていた。だが、ナティアがそんなことを許すはずもなく。
「私、ここに古の精霊がいるって知ってね。それで契約しにいこうと思ってここに来たんだけど……」
「古の精霊……?」
『何故この子が……』
カルロはもの凄く機嫌が悪いようだ。恐らく先ほどからカルロは気付いていたのだろう。ナティアが何をしに森へ入ったのかを。そして、思っていた通り、ナティアは風の精霊・フェザールーンと契約をしたいと言い出した。
古の精霊は、とても敏感で、繊細で、強大で、普通の人間が近づけるようなものではないし、『契約』なんて恐れ多いのだ。たとえ一国の王だとて、古の精霊達を従えることは不可能だ。
だが、たまにナティアのように、『強い精霊が欲しい』という理由で聖地に踏み入れる人間がいる。その度に、精霊達は人間の手の届かぬ森の奥へ隠れ、身を潜めていた。自分の行動に罪を感じていないナティアに、カルロは激しい憤りを覚えていた。
「(仕方ないよ……古の精霊は伝説なだけに、人はそれを求めてしまうから……)」
コウはカルロにだけ聞こえるくらいの小さな声で、そうなだめた。カルロはコウに擦り寄り、そして、宙を舞った。その瞬間、ナティアの驚きの声が森に響いた。
「あ! 精霊だわっ!」
突如上空に現れた生物を見て、ナティアがそう叫ぶ。今のでカルロが姿を見せた事が分かった。
「ああ、彼は樹の精霊だ」
「へぇー、カイルの契約精霊?」
「まぁ……」
事情を説明する訳にもいかないので、コウは適当に相槌を打つ。
「そうなんだぁ。でも樹の精霊って何か役に立つの?」
このナティアの一言にカルロは少し腹を立て、コウの後ろに姿を隠した。ナティアは「怒ったのかなぁ」と申し訳なさそうな顔になる。
「カルロは俺の友達なんだ、それにカルロは強いよ」
「ふーん?」
コウが少し自慢げに話すので、面白くないといった様子でナティアは返事を返す。
「俺も精霊を探しに来たが、今日はこれ以上は無理そうだ。引き返そう」
コウはそう言い放った。ナティアがいるんじゃ古の精霊は姿を見せないだろう。それに、このまま森の中に彼女を放っておくのも心配だった。
コウはカイルの姿に慣れると自分が女であることを忘れ、ついつい男目線の考え方になってしまうようだ。現に、男言葉もすんなり使えてる。カルロはコウの言葉に同意し、今度は森の入り口を目指した。
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