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第4話:2


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 再び町中まで戻ってきたが、動悸がなかなか治まらない。全速力で逃走したからだろうか。

「す、すごい、ね、カルロ……」

 片手で汗を拭う私にカルロが寄り添った。

『当然です。大丈夫ですか?』

「──というか、カルロ何者なの? 何あの蔓」

 疑問を投げたが、思い当たる節はある。カルロの雰囲気が銀の精霊と重なって感じたから。

「えーと、ツルを操ったから木の精霊?」

『はい、正確には樹の精霊ですが』

 やはりそうだ。気配というか彼らを取り巻く空気が、口では説明できない何かを無意識に感じ取っていた。
 これもアムリアの力なんだろうか。

 暫く周りを気にせず考え込んでいた。近くに変な老人が寄ってきている事も気付かずに。

「お嬢さん、お金欲しくない?」

 急に声をかけられたことに驚きびくりと肩を揺らす。
 振り向いた先に居たのは小汚い格好をした老人だった。
 明らかに怪しい。何しろカルロが異常に警戒している。コウは足元へ降りたカルロを目で追った。

「足元に何かありやすか?」

「えっ!? いや…」

 やはり、他人にはカルロが見えてないんだ。

「それより……簡単にお金稼ぐ方法あるよ〜。君綺麗だからすぐ売り手が……」

「け、結構ですっ!」

 コウはもの凄い勢いで叫び、脱兎のごとく走り去った。今のは絶対に身売りか何かの勧誘だった。


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「もう……今日は何なのよ」

『今日だけではないでしょうね。若い女であれば誰でもこんな目にあいますよ』

 あっさり言われるとお手上げじゃないか……。コウはどう仕様もなく、目を反らす。女というだけでこれほど危険だとは、気付かなかった。

「そういえば……カルロは私以外に見えないの?」

『はい、マスターにしか姿を見せないようにしています』

「他の人に見せようと思えば出来るってこと?」

『はい、もちろん』

 カルロは平然と応え、空中浮遊を楽しんでいる。それを横目で見ながら、コウは記憶を手繰り寄せていた。
 ずっと前に、アモン教皇が言っていた……精霊が姿を見せたり見せなかったり出来るのは、その精霊が強い力を持ってるからだと。
 じゃあカルロは強い精霊ってことになる。……そうは見えないが。

 ぐ――……

 慣れない頭をフルに使ったからか、お腹が悲鳴を挙げた。(関係ないかもしれないが)

「パンか何か食べようかな」

 見習いにも少ないが金は支給されている。金の価値も一応は理解した。すぐそばにおいしそうなパンを売っている店があったので、コウは迷わずそこへ向かった。

「まいどありっ!」

 店主から品を受け取り、コウはパンにがっついた。

「おいひーっ」

「そりゃあよかった」

 店主は常に笑顔なおじさんだった。店の奥で火を焚いている男の人がいる。おじさんの子供……ではなさそうだ。もしかして、見習いか……?

「あの、おじさんは見習いにどんな仕事をさせるんですか?」

 売り切れたパンを補充していた店主は、背を向けたまま話す。

「見習いかー……生活の手伝いがほとんどだね」

「じゃあ炊事洗濯は女の見習いが……」

「いやいや、そんなのは自分でやるさ。それより力仕事の方を手伝ってほしいな。女は使えねえよ、精霊使いやシスターなら話は別だがな」

 女は使えない? じゃあ私って……何にも出来ない。女だし、精霊使えないし、シスターとかじゃないし……

 コウはフラフラとその場を離れた。

「ところでお嬢さんはいったい何を……あれ?」

 店主が振り向いたそこには、誰もいない。……まぁいいか、と独り言を言って、作業に戻る。



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