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第4話:白の少年


 4話 白の少年


 ここはティレニア正門前。辺りを見渡せば屈強な男や怪しい魔導士達が訓練を始めていた。

 門の傍に行くと少し列が出来ていて、自分の番が来るのを待つ。
 数分して前の人が出て行き、機関関係者を記す腕章を付けたお姉さんがこびり付いた笑顔で言った。

「こんにちわ。パスを拝見させて頂きますね」

 こちらも可笑しな笑顔で返し、先日もらった通行パスを渡す。

「……かしこまりました。20時までにお戻りください。それ以降になる場合は次の日の朝6時まで入館できないので気をつけてくださいね。それではいってらっしゃいませ」

 マニュアルをそのまま読み上げた様に淡々としゃべる彼女は恐らく手慣れた人だ。既にこちらの目も見ていない。

 通行パスの確認が終わり、正式にティレニア軍事機関の外を垣間見られることになった私は、心が逸って仕方が無かった。

 正門を抜けてフィナの町へと続く道を確かめ、一先ず地図を仕舞う。

「よし、張り切って行こう!」

 誰の目もお構い無しに声を張り上げ気合を入れた。
 真っ直ぐ丘を貫く小道を沿って歩き出し、柔らかな風の祝福に身を委ねていた。

 正門から少し歩くと町の入り口が見えた。頭上に広がる青空を見て、少し前のことを思い出していた。そう、初めてここに来た時のことを。

「あの日もこんな風に晴天だったな」

 数奇な運命を辿っている気になって、思わず笑みが零れる。あの時もこうやって自然を感じながら小道を歩いていた。
 ただ、3歩前をすたすたと歩く鎧の兵士は今は居ないけれど。

 後ろから騒がしい足音が聞こえたので道の端に寄る。後方から小さな馬車がやってきて、そのまま私の横を通り過ぎて行った。

 ティレニア軍事機関を囲うように小さな街が栄えているが、大抵自由都市とはフィナの町を指す。軍事機関と余り距離が無い為、一緒に考えられる事が多い。

 小道を歩き続けて二十分ほど経った頃、漸くフィナの町が見えてきた。

 相変わらず賑やかで来たときとちっとも変わってない。簡易門を潜るとそこから先は店の行列で、町の中央に向かって家屋が立ち並んでいる。

 放心円状の町の形態は珍しくなく、一つの都市で商業と農業を十分に行う満たされた空間となっていた。

 それもこれも、南大陸には精霊の加護が大きく関与しているからなのだと、すれ違う人々は何処からともなく言葉にしていた。

 私は多くの店に目移りしながら、やっとの思いで人の波に乗る。

「本当に凄い人の数……ぅわっ!」

 大柄の男とぶつかって横へ弾き飛ばされた。

「いった……ちょっと謝るくらいしなさいよ!」

 と怒っても、男の姿はもう見えない。

「もぅっ……ん?」

 突き飛ばされて入ったわき道には、ボロい建物が奥へ奥へと続いていた。奥の方を覗くようにして、少しずつ入って行く。

 高らかと聳える石壁を見上げていると、それらに反響して靴音が響いた。

 振り向く間もなく、後ろから抱きつかれ口を塞がれた。

「ん──っ!?」

 見知らぬ男が2人、いや3人だ。どんなに必死で叫んでも塞がれた口からは一声も出ない。

「今日の女は上玉だなぁ。とりあえず犯してから売るか」

「ああ、そうだな。なかなか楽しめそうだぜ」

 コウは初めて恐怖を抱いた。
 訓練室での戦いですら嫌悪感を持っただけで身がすくむことはなかったが、今は弱々しい声を絞り出すのが精一杯だった。
 逃れようともがく行為も虚しく、男の汚い手がコウの体をまさぐった。
 ちょうどその瞬間に、男の手に一本の蔓が巻き付いた。

「何だこれ……木の蔓か!?」

 廃墟の壁に絡みついている蔓は男共の首や足に瞬時に絡みつき強く締め付けてゆく。
 三人の男は地面に叩きつけられ呻き声を上げた。

『今の内に逃げてください』

「あ……っ、カルロ!?」

 逃げたくても足が震えて動かない。自分の足を拳で殴り、動け! と叫んだ。

 強引に立ち上がり気合で走り出したコウは、そのまま表通りまで走り抜けた。




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あきゅろす。
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