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第3話:5


 サラの叫び声が聞こえた。
 と同時にレッドの左脇にさしてあった小刀が目の前に出現した。

「なっ……!」

 その時私は何も出来ず、ただやけに長い一瞬だと、そんなどうでもいいことを考えていた。
 私の手足はセーレンハイルの意思のみで支配され、まるで自分のものではないかの様に感じた。

 訓練場に凄まじい鉄の打つ音が響き渡る。
 レッドの小刀は遠く飛ばされ、勢い良く地面に刺さった。

「……え?」

 気付くと私の左手は鞘を掴んでいて、先生の小刀を払った模様。
 自分では全く意識がないが。

「くっ……くく……」

「せ、先生?」

 何だか訳が分からなくなって挙動不審に辺りを見回す。
 いつの間にか集まった見学者たちは手を叩いて称賛したり、逆にいぶかし気に首を捻る人もいた。

 いつまでも上の空な私を見てレッドの笑いは更に増す。

「はっはっはっ! この俺の攻撃を跳ね返すとはな、おもしろい! 合格だ!」

 レッドはさも愉快そうに口の端を吊り上げている。
 彼の赤い髪が真昼の太陽に染まり輝いていた。

「コウ、やったじゃない!」

 場外で応援していたサラが来て私の背中をバシバシと叩く。
 何故そこまで盛り上がっているのか知らないが、サラは勢い任せにしがみついてきた。

「サ……サラ! 苦し……」

 仲良さげな私達にレッド思わず微笑んだが、一瞬にして教官の顔に戻り試合内容を記録し始めた。
 それが終わるとこちらを向き、何かを軽く投げた。

 投げ渡されたのは星の形をしたプレート、つまり合格の証だ。

「……初めてもらった」

 まじまじとプレートを見詰めながら、これをあと二個も取得しなければならないのかと意気消沈する。

「コウ! やったわね!」

「うん……でも頑張れたのはサラのおかげかな。ありがとう」

「あんたが頑張ったからでしょ? 変な子ね」

 思いも依らぬことを言われたらしく、サラは少し照れていた。

「サラはレッド先生の試験受けたの?」

「まさか、レッド先生は剣士や戦士専門だもの。ま、私なら剣なしで合格出来ると思うけど」

 ついっと鼻を高くして得意気に話す彼女を少し羨ましいと思ったのは言わないでおこう。
 調子に乗られると困るから。

「コウならあと二つくらい楽に合格取れるわよ。頑張りなさい」

「うん、ちょっと自信ついたや」

 私は場外に置きっぱなしのセーレンハイルを取りに行く。
 持った感触に違和感を感じて、改めてこの剣が特殊であると気付いた。

 私とサラは訓練場を出て各自部屋に戻った。


++++++++++


 通い慣れた廊下を進み、殺風景な部屋に戻る。
 服を脱いでシャワーを浴び、寝巻きに着替えてベットに座った。

「カルロと友達になったし、合格のプレートももらったし、憂鬱な気分が随分爽快になったもんだわ」

 朝はあんなに気落ちしていた私が、今は清清しい気分に早代わりだ。自分でも不思議な気持ちだ。

「そうよね……いつまでもウジウジしてるなんて私らしくないし。明日からはもっと頑張ろう。外に出れば何か出来ることがあるかもしれないしね」

獣と戦った記憶は抜けないけれど、それ以外にやれることが在るならそれでいい、と思えた。
そしてもっと世界を知りたいと思った。



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