第3話:4
サラに連れてこられた場所は、剣を習う生徒が大勢いる訓練場。
とりあえずセーレンハイルだけを部屋から持ち出し、壮絶な訓練をしている戦士達の間を潜り抜けた。
「あそこで今あの生徒の試験をしているわ。見に行きましょう」
サラは決して手を離そうとしなかった。相変わらずグイグイ引っ張っていく。
「あの先生は結構有名なのよ。レッド先生っていうの」
「へぇ……」
興味なさそうな態度にサラは不満そうだ。
「先生ー! レッド先生ー!」
形振り構わずサラは叫んだ。
「お? 君は魔法科の優等生、サラちゃんじゃないか」
「ちゃんづけしないで!」
「はいはい。で、どうした?」
異常に意気込んでいるサラと、誰よりもやる気のなさそうな私。
レッド先生というらしい赤髪の男に負けず劣らず、サラは堂々と答えた。
「コウの試験をして欲しいの」
「何でそんなことお前が言うんだよ」
それもそうだ。勝手に人の試験を申し込むなんて常識外れもいいところ。
だがサラはそんなことを言われたくらいじゃ怯みやしない。
逆にレッドを激しく睨みつけ再度申し立てた。
「そんなことはいいんです! 早くコウの試験してください!」
「だから噛み付くなって! えーとな、取り敢えず聞くがお前はそれでいいのか?」
先生は私にそう聞いた。彼の目には少し同情も含まれている。サラがお節介なのはいつものことらしい。
ここまで来て今更逃れるのは難しそうだし、仕方が無い。
「はい。お願いします」
レッドは二ッと笑い、試験の説明をし始めた。それを虚ろに聞きながらセーレンハイルを布から取り出す。
レッドはピタリと口を止め、訝しげな顔をしていた。
「コウ、武器はこの中から選ぶようになってるんだ」
「この中から……ですか?」
「まあ一応試験だからな。不正の無いようにするためだ」
「分かりました……」
先生が戸惑ったのは私が自分の剣を使おうとしたからだろう。説明聞いてなかったのバレただろうか。
不安になりながらもセーレンハイルを仕舞い、籠に詰まった剣を手に取る。どれもこれも重たいものばかりで扱えそうにない。
これが斧や槍ならもっと重たいだろう。いや、きっと持てない。
ふと風を感じ、セーレンハイルに目を遣る。剣から熱い気が送られ、その感覚はいつまでも残っていた。
レッドとの間に一定の距離を空け、お互い剣を構える。
「いくぞ!」
レッド先生が開始の合図を鳴らすと同時に、こちらへ突っ込んできた。
最初の打ち込みは何とか受けることが出来た。セーレンハイルのおかげか、剣が軽く感じる。
「ほお……うまく受けたな。じゃあ次は──」
レッドは遊び感覚で剣を操っていた。対する私は常に必死で先生の剣を追う。
それから何度も打ち合いをしていた。その度に先生は楽しそうに笑う。
「お前、なかなかやるな」
「いえ、そんなことは……」
「いやいや、たいしたもんだぜ。技とスピードどちらも申し分ない。見習い生徒相手に一線越えちまいそうだぜ」
恐らくセーレンハイルが手助けしてくれているからこんなに動けるのだと思うが、今のレッドの発言には危機感を感じた。
それから……どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
この試験は初歩的な力を見るだけのもので、普通は数分で終わる。だが私たちはもう1時間ほど打ち合っていた。
異常事態に気付いた周りの人間が少し騒めき始める。
「そろそろか……」
先生は何かを呟いて右から大きく剣を振りかざした。咄嗟にそれを剣で受ける。
よし、と思った瞬間……。
「コウ! 左よ!」
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