第3話:1初試験
目が覚めて、飛込んできたのは真っ白な天井。少し左を向く。窓の外には蒼い蒼い空。二羽の鳥が横切った。
「……朝、か……」
3話 初試験
コウは重たい体を起こした。覚束ない足取りでバスルームへ向かうと、全身を映す鏡の中の、頼りない少女の姿を見た。
昨日、無意識に訓練室から出ていたようで、そのまま自室の風呂に駆け込んだ。どうしても体に染み付いた嫌な臭いを落としたかった。
何十分もシャワーを浴びたが、それでもあの鈍い感触は消えなかった。
恐くなって風呂を飛び出し、ろくに体を拭かないまま布団に潜り込んだ。
そのまま意識は途切れ、今に至る。
「動きたくない」
憂鬱な気分が抜けない。昨日動きすぎたせいで体がぎしぎしと痛む。
「……もう、やだ」
何もかも嫌になってきた。獣を斬るだけでも耐えられないのに、もし人を斬ることなんかになれば。
「私は……出来ないよ……」
気づくと頬が濡れていた。鼻も詰まってきた。目が熱くて止まらない。
「今日は……風邪ってことにしよう」
そう自分に言い聞かせて、またふとんに潜った。
*****
それから十日が過ぎた。その間運ばれてくる食事にもほとんど手をつけずにいた。
「さすがにこれ以上篭ってはいれないよね……」
漸く外へ出る決心はついたが、修行なんてする気は全く起こらなかった。
「外を……皆の様子を見てみようかな」
他の人だってあんな経験をしているはずだ。それでも笑って過ごせるなんて私には考えられない。
「みんな、すごい……」
久しぶりの朝食をとった。
私はこうやって生きているけれど、死んだ獣はどうなるのだろうか。
訓練室の方へ目を遣る。
あの中には、今もあの忌まわしい獣はいるのだろうか。いや、きっと死んだものは何処かで排除されるのだろう。
だからきっとあの化け物はいない。そうと解っていても、あの部屋に入ろうとは思えなかった。
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