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閑話3


「君に頼まれた通り、ちゃんと様子を見に行ってきたよ」

「それで、彼女は?」

「ああ、お前の言ったとおり、あれは完璧にアムリアだ。間違いない」

 グレイはアムリアという言葉に僅かだが反応した。最近リセイが公務も放って熱心になっているのが、他でもない精霊王であるコウの事だった。

 普通は教皇自らこの城に来る事はない。どうせ今回の来城もそのことだろうと予想はついていたが。
 グレイは頭痛の種が多くて困る、といった顔で二人の話を聞いていた。

「君から聞いたときは正直何かの見間違えじゃないのかと思っていた。でも彼女は本物だ」

「何か確証でもあったのか? そこまで言い切るなんて珍しいな」

 アモンは苦笑した。

「あの気難しい銀の精霊が、彼女に惹かれていた。で、そのまま置いて来たんだ」

 リセイは驚いた顔をした。精霊がアムリアに惹かれるのは普通だが、あの銀の精霊となると話はまた別だ。

 彼は契約者であるアモンにしか近寄れない。極度の人嫌いだった。

「まあね。確かに精霊にとっては、人間といるより精霊の王といたほうがいいだろうから」

「呼びかけには応じるんだろう?」

「ああ、強く呼べばこちらに来る。だが今は彼女のそばに置いておいた方がいいだろう。まだ精霊を使えない彼女を危険から守らなければならないからね」

「そうか……手間を掛けさせたな。礼を言う、アモン」

 思いがけないリセイの言葉に、グレイとアモンは同時に驚く。しかしリセイは何かに思いわずらっている様だった。

「彼女は……コウは元気にしているだろうか」

 リセイは窓の方を向いて、そう言葉をもらした。グレイは嫌な予感が当たってため息を吐きながら顔を背ける。対してアモンは得意になって見てきた感想を伝えた。

「めちゃくちゃはっきりした子だったな。教皇のオレに何の躊躇も無く意見してきたんだぞ! 本当におもしろい女だった!」

 アモンは愉快そうに笑う。リセイもそれを聞いて、少しだけ顔が緩んだ。そんな様子を、理解できないといった感じで見つめるグレイ。

「コウは大人しそうに見えて実は感情の起伏が激しい。私も初めて会ったとき、そのギャップに困惑した」

 困惑したと言っている本人は、どこか上機嫌だった。

「初めは、高原の真ん中で寝転がって変な奴だ、と思っていた。そしたら……コウの周りに、たくさんの微弱な精霊たちが集まっていた…直には信じられなかったな…」

 アモンは彼の話に深く頷きながら同調した。

「普通微弱な精霊は自然界に隠れていて人間には近寄らない。だがコウが自分達の王だと感じとり、傍に行かずにはいれなかったんだろう」

 精霊は脆弱な存在だ。自然を汚されれば生きてはいられない。人間は何よりも自然を壊す恐ろしい存在だ。精霊にとっての宿敵ともいえる。

 だがそれを逆手にとって、人間と契約し安全を確保するものも少なくない。人の為に働く限りは、人から害を受けない。

 戦士となると話は別だが…

「で、私は近々ティレニアへ行こうと思っている」

「へぇー……えっ!?」

 意外な言葉にアモンは声を出して驚いた。

「覇王が自ら…会いに行くだって!? そんなばかげた事…」

 アモンは落ち着きを取り戻せない。何を言ったらいいのか解らず、喉まで出掛かっている言葉を何度も飲み込んだ。

「姿を偽ったままではこちらの言う事に信憑性もないだろう。帝国の神軍隊長として彼女と対峙したいのだ」

 リセイの顔に後ろめたさというものが伺えた。決して騙しているわけではないけれど。精霊の王であるコウと対等な立場でありたいと思うのは、きっと心のどこかで焦りがあったからなのかもしれない。



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あきゅろす。
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