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閑話1



 ===帝国 クロス城===


「異常ありません!」

 城門に護衛兵の声が響いた。ほかの兵達はいつものように一直線に並ぶ。その中央から白い軍服を着た男が現れると、周りの兵が道を開けた。

 男は薄い金色の髪をさらさらと夜風に流しながら、少し不機嫌な様子で出迎えた。

「予定より遅かったので心配しましたよ」

「連絡するのが遅くなった。心配をかけたな、グレイ」

「いえ。貴方様が無事ならば、問題はありません」

 男はそう言うと、主の前で腰をかがめて深く礼をした。

「お帰りなさいませ、帝国覇王、リセイ様」

「──お帰りなさいませ!」

 兵士達全員が声をそろえる。鼓膜を震えさせるほどの大音量となった。その声は城門から城内へ響き渡り、通り越して城近くの高原まで届くほどだった。

 頭を上げている者など一人もいない。高位と思われる金髪の男ですら、右手を手前に、左手を腰にあてて身を屈めていた。

 そんな物々しい雰囲気の中、覇王と呼ばれる男は颯爽と歩いていく。その足取りに躊躇いなど無い。
 堂々とした姿は覇王と呼ぶに相応しいものだった。

 軍事最高機関ティレニアの北に位置する大陸全土が、帝国フィルメント。
 この帝国を中心として、東の大陸にセニア国、西の大陸にラナース国がある。
 だが帝国の北の大陸については詳細が明らかにされていない。

 それぞれの国には王や軍が存在するが、特に帝国フィルメントは世界最大の軍事力を誇る国であった。
 ティレニアはあくまで軍事教育の場であって国ではない。当然王など存在しないし軍も無い。
 ──無くてよいのだ。

 世界的中立を保つ機関ティレニアは集団的自衛権を有し、他国からの武力的又は経済的制裁を受けない。
 ここで育てられた戦士達は各国へ配置され、それぞれ任務をこなす。
 それ故ティレニアには様々な国の優秀な教師や司祭が集まっていた。

 そして……帝国フィルメント。
 帝王が最高位に位置し、その補助として宰相や司祭が存在する。軍事に関してだが、通常の戦乱や遠征は聖軍が赴く。
 聖軍と同列にもう一つ神軍が存在し、神軍は聖軍に比べて少ない人数で構成されている。

 彼らは通常、一般市民に混じって内情を探ったり時には暗殺役を担ったりもする。
 言うなれば神軍は帝国の切り札というやつだ。

 その神軍の軍総のことを、その驚異的な強さから皆覇王と呼び、敬っているのであった。

 帝国フィルメント神軍軍総リセイ=オルレアン。

 ここは彼の専属の城、クロス城である。




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あきゅろす。
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