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第2話:01呪われた剣


 2話 呪われた剣


朝が来た。
あの眩しい太陽をこれほど拒絶したことはなかった。
朝が来れば、現実世界に引き戻されてしまう。だからコウは再び目を閉じた。
この温い場所から、夢から覚めたくない、と。

だが無情にも日は高く昇り続け、薄暗かった部屋はいくつかの影を明確に残すほど明るくなっていた。

仕方なく重い体を起こす。昨日中途半端な格好で寝たからだろうか、少し寝覚めが悪かった。
しばらく何もない真っ白な壁を眺めていると、扉を叩く音が聞こえた。

一間おき、現れたのは軍事機関の女性だった。
彼女は堂々と部屋に押し入り、木製のワゴンからプレートをひとつ取り出すと、空のカップに牛乳を注ぎ、足早に部屋を出て行った。

彼女は毎回食事を運んできてくれるが、声を聞いたことはあまりない。

最初の内は分からないことを質問していたのだが、その内に話すことがなくなると、適当な話題も思い浮かばず、こうしてさっさと引き上げてしまう。
誰とでも仲良くなりたい訳ではないけれど、彼女は機関の人間の中でも、特に自分に近い年頃だから、言葉を交わしてみたかった。
ただ、それだけのこと。

「また、今日もパンか。そろそろお米が食べたいなあ」

これは贅沢というものである。何せ、コウは一文無しでこの機関に入り、それから一切お金を払っていない。
全て謎の兵士が面倒を見てくれたのかと思うと、非常に申し訳なくなった。

朝食を終え、コウはこれからどうしようか考えてみる。
とりあえず自己防衛は必要だろう。アムリアと言っても、実際何も出来ないのだから。

「だいたいねえ、エレメントとかいう魔法みたいなものは使えないのに、その力を強められてもね。意味が無いじゃない」

やはり剣術は必要だと思い直す。

だけど本当は、「アムリア」というだけで生きていくことも出来るのだろうと、コウは密かに感じていた。
この世にたった一人しかいない「特別」な人間だというのなら。
だが、知らない誰かを頼りにして、自分の命まで預けてしまうのは危険すぎる。
出来ることなら、自分の身は自分で守りたいとコウは考えていた。

コウは支度を済ませると、部屋に鍵をかけて中央ホールへと向かう。
再び適性検査を受けようというのだ。
その足取りはやはり重く、コウの憂鬱を周囲に撒き散らしていた。


 *****



 コウが中央ホールへ着くと、昨日と同じ女性教官が立っていた。彼女はこちらを見るなり酷く驚いた。

「また、いらしたのですか」

「いや、剣術を習いたくて……。それには適性は必要なんですか?」

「……剣術を? 可笑しなことを仰るのですね。貴女はアムリアの力をお持ちなのですよ」

 なんだか棘のある言い方だった。

「精霊を見ることすらできないんです。とてもじゃないけどアムリアとかいうのを名乗れないし。でも、最低限の剣術は取得したいの」

 なんて曖昧な答え。結局自分の力も満足に発揮出来ず、柔い腕で重い武器を振るうのだ。無謀だと思われても仕方がない。

「そうですか。わかりました。少々お待ちください」

 お姉さんは視線を下げて何か考えた後、コウにしばらくここで待つように指示し、どこかへ行ってしまった。
 その後ろ姿を虚ろに眺めていると、どこからか知った声が聞こえてきた。

「あら? 貴女、確か説明会で遅刻した無粋な方でなくて?」

 この嫌味な口調に高い声は聞き覚えがあった。

「貴女は……」

「サラ=レイドルートよ。同じ生徒の名前も覚えてないの?」

 金髪の美少女は髪を払いながら鼻をついっと上げた。

「サラさんだね、よろしく」

高慢なキャラが現れたなと、コウは少し面白がってみる。こういうところが落ち着いた人間だと他人に思わせていた。

「ところで貴女、こんな所で何をしているの。練習は?」

「私、まだなの」

「え? まだってどういう……」

サラという金髪の美少女は、大きな瞳を真ん丸にしていた。

「あなた……まだ適正検査なんか受けてるの!? 信じられない!」

サラはよく通る声を張り上げた。他の生徒達はもう練習に取り組んでいるのに、自分だけ悠長に能力診断なんか受けているなんて、本当にどこまで悠長なんだと自分でも思っていた。

「それで、主要武器は何にするつもりなの?」

「一応剣術を習おうと思ってるの。サラさんは?」

「サラでいいわ。私は導士希望で、今は炎を習ってるのよ」

「いいなぁ。あたしもエレメント使いたい」

そんな風に羨ましがっていると、どこからか声が聞こえてきた。

「あらあら、エレメントも使えない人間が私達と同じ扱いで入学してきたの? 機関のミスなんじゃなくて?」

そう言ったのはサラでなく、サラの隣にいた女生徒だ。少し赤みの強い茶色髪で、初めて見る顔だった。

「うん、そうなのよね。才能ないのよ、私」

コウは怒りもせず、かといって気負けする訳でもなく、赤茶髪の少女にそう返した。


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