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第1話:03
時が経つのが異様に早く感じた。
“軍事機関ティレニア”
コウが寝泊まりしているこの建物はそう呼ばれている。いずれ世界各国の軍人になる者や戦士として技を高める者が集う、育成学校のようなものである。

広大な敷地に館がいくつも立ち並び、機関の周囲は高い壁で囲われているため、外から見れば立派な城に見える。

コウはこの数日何をしていたかというと、とりわけ何もなかった。ただ毎日運ばれてくる食事を喉に通すのがやっとで、とても自分の置かれている状況を考えるなど無理な話であった。

食事を済ませると、コウはいつも中庭に出た。何人もの機関生とすれ違うが、誰もコウに違和感をもつことはないようだ。人が入れかわり立ちかわりしている証拠だろう。

ふと、コウは足を止めた。
今日はある場所に向かうため、中庭の前を通っていたのだが、前から長身の青年が歩いてきた。薄緑色の髪は珍しかった。彼はその無表情を緩ませ、綺麗な笑顔を向けてくれた。

「おはよう、アーク。今日は鍛錬に行かないの? いつもなら朝早くから修練場に入り浸っているのに」

「ああ。朝はちょっと用事があって、訓練は午後に回したんだ」

「そっかあ」

コウもつられてにこりと返す。
彼の名はアーク=バクト。この軍事学校の生徒だった。コウがここへ来て3日目くらいだろうか、突然話しかけられた時は驚いたが、何故だか色々と世話をやいてくれている。

「だけどコウ、こんな所で何してるんだ? そろそろ説明会が始まる時間だぞ」

そう、コウは今日からここの授業を受けることになっていた。まず初めに説明会があるというのだが、コウは現在地さえ把握していない状況だった。それを素直に白状すると、彼は一瞬間ぽかんとして、すぐに呆れた顔つきになった。

「何やってるんだよ。仕方ないな…。ほら、こっちだから」

彼はコウの無知をからかったりするような真似は一切しなかった。わからないことだらけのコウにあれこれ質問されても、毎回根気強く答えてくれていた。彼には本当に世話になりっぱなしだ。

「ありがとう」

少しはにかみながら、アークに礼を言う。彼は慣れた足取りで進んで行った。
長い廊下を走り抜け、立派な銀細工の扉の前まで来ると、そこで立ち止った。

「あー、何となく見覚えがある。ここ、中央ホールへの入り口かな」

「そうそう。この中で説明会があるから」

「本当にありがとう」

ぺこりと頭を下げると、アークは照れた表情を見せ、いいよ、と言ってくれた。

「コウはまだここに来て10日くらいなんだから、わからない事があったら遠慮なく言ってくれよな」

そう言うと、すぐさま彼は走り去ってしまった。彼のその親切心がどこから湧き上がってくるのか興味があったが、今はそれどころではないのだ。説明会の時間はとっくに過ぎている。初日から遅刻ではさすがにまずいだろう。

コウは急いで目の前の扉を開けた。


「そこのあなた! 1分25秒の遅刻です! 何をやっているんですか!?」

扉を開けたのとほぼ同時だった。苛立ちを含んだ女性の声がホールに響いた。

慌てて部屋に入るも、中央ホールには既にたくさんの生徒が座って待っていて、その中を入って行くのは大変気まずい。生徒たちはコウに対しそれほど興味は無いようで、ちらりと見て顔を背ける人が大半だった。
くまなく室内を見渡したが、空いている席は一つもない。
ここへ来る際、自分では何の手続きもしておらず、住所もわからないし、身分証明もない。記憶がない時点で「不審者」扱いされてもおかしくはないのだが、それでも、あの警備兵フレアンを信じて、顔を上げ堂々とするしかない。

「何やってるの、早くしなさい! あなた名前は!?」

コウはとっさに名前だけ答えた。気づくといつの間にか辺りが騒めいており、その中でも比較的近くに座っていた女子生徒がこちらを向いた。

「あなたバカ? 名前だけじゃ分からないでしょ、出身とか言いなさいよ」

そう言われても困ったもので、頭をフル回転させた。

「あっ!」

「何です、マリア=モール!」

「議長、あの方から紹介状が来ておりましたわ」

マリア教官の報告を聞く議長はいかにも不機嫌だという顔をする。その間ずっと、コウは周囲の視線を浴びながらホールの入り口に立っていた。議長はマリアから紹介状を受け取り、それに目を通した。一通り読んで、ふうと息を吐く。

「コウ、こちらへ来なさい」

議長に言われるまま、ぎこちなく歩いていく。皆が好奇の目を向けているのが分かり、更にいたたまれなくなってくる。

近くで議長を見ると、その身分に相応しい知性と威厳に満ちた女性であった。後ろにひっつめた髪が余計に彼女という人物を印象づける。

「こちらの不手際で貴女の席が確保できておりません。今から用意させるのは…時間の無駄ですから、空いている席にどうぞ」

「えっと…空席はないみたいですが…」

「ありますよ、ここに」

議長は何の悪びれもなく教師側の席を指した。

「新入生の説明会には参加しろとあれほど繰り返し言っておいたのですが…まあいいでしょう。戦士担当教師の席に座っていなさい。話はすぐ済みます」

「は…はい…」

一先ず指定された席に座り、同じ生徒なのに正面を向いてる私に対する疑いの目も気にせず、議長の話を聞いていた。

「それでは皆さん、今からこの育成機関の簡単な説明をします」

教官らしき人が資料を配る。その資料には、規則や施設の説明などが書かれていた。
基本は自由行動であること、各自部屋に設けられたバトルルームで技を磨くこと、見習いの資格が得られたら街へ出て仕事を請けることができることなど、簡潔に説明していく。

「ただし、城を出るにはパスが必要になります。こちらが指定した3人の戦士から合格が出れば、パスをさしあげます。また主な連絡事項は中央掲示板を用いるので、必ず毎日見るように。私からは以上です。後はマリア=モール、お願いね」

名前を呼ばれて、彼女は活き活きとして表に立った。

「はい! 皆さん改めまして、マリア=モールです。これから皆さんに部屋の鍵を渡します。ここに一列に並んでくださいね。」



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あきゅろす。
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