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朧月

雲で霞む月、それは貴女のごとく…。

朧月


「至福…だったな」

リズヴァーンは庭に出て月を眺めながら呟いた。

少女と過ごした日々。楽しくもあり、苦しくもあり。
溢れる笑顔、流れる涙…全てが愛おしく。だが彼は知らずにいる。本当の『しあわせ』を……。少女に自分の想いを告げずにいるから。そして少女もそれ以上、彼には踏み込まないから。いや、二人とも恐れているだけかもしれない。二人の関係が『壊れる』かもしれないことに。

彼は溜息をつく。

想いだけが胸を突くから。

「……先生?」

後ろから声を掛けられる。わざわざ振り向かなくとも、彼には声の主が分かった。自分の想い人である。

「どうした、望美?」

龍神の神子に選ばれた少女、春日望美。強いが誰よりも脆く弱い少女。

彼は少女を護る八葉の一人だった。それ以上でもなく、それ以下でもないはずだった。

(いつからだったろう…)

輝く月のごとく、遠い存在だったはずなのに。今ではこんなに近くにいる。自分に笑いかける。自分だけの存在であってほしいのに…彼と少女の立場がそれを許さない。仲間を裏切ることだけはしたなくない、彼はいつもそう考え、行動してきた。

「先生こそ、どうしたんですか?こんな夜中に」

「寝付けないものでな。明日も怨霊退治なのに、情けないな」

「なら私も情けないんですね」

少女が朗らかに笑う。彼は少女の笑顔が好きだった。
声も、その細い肩も全て。

「でも負ける気は全然しないんですけどね」

「余裕だな、龍神の神子は」

「そうですか?先生が傍に居てくれてるからですよ。そうでなきゃ、ここまで強くなれなかったですもん」

彼の胸が波打つ。だが平常心でいなければと気持ちを抑える。「先生が私に剣を教えてくれたんですよ?だから私は強くなれたんです」

「望美は元々強いだろう?」

「そんなこと!」

少女は突然声を荒げる。

「そんなことないですよ!!私はいつだって先生がいなくちゃ何も出来ないんです!隣りに先生がいてくれないと……好きだから。大好きだから!!」

少女の頬を涙が伝う。

「私はずっと前から…好きでした、先生のこと。でも先生は……」

彼は胸を痛める。こんなにも少女は自分のことを想っていたことに驚きながら。

「その気持ちは、罪深いものだ。ずっと胸の奥に仕舞っていて欲しかった」

「…先生……」

リズヴァーンは望美の涙を拭い、抱きしめる。

「間違い…なのかもしれないのだぞ?」

もう、戻れないかもしれないのに。

「それでもお前は私を好いてくれるのか?」

「もちろんですよ!ずっと好きでいます!!」

少女は顔を真っ赤にして言う。
この瞬間にも、彼の全てを独占したくて。

心を独り占めしたくて。

「───…    …」

彼は少し考え、少女の耳元で囁く。

「先っ…!」

少女の言葉を口付けで遮る。少女は驚きながらも、彼の背中に手を回す。

初めてのキスは強引でも、想いを伝えたくて。

初めてのキスは強引でも、嬉しくて。


気づけば雲は消え、月は二人を祝福するように輝いていた。



+++あとがき+++

すみません、大場様。私のミスで消してしまい…。
書き直した話は前回よりも雰囲気が微妙にちがうかもしれませんが…申し訳ないです。
先生の台詞はぜひ考えてみてくださいね。キリリクありがとうでした!!




あきゅろす。
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