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08


覚悟は決めた
麻酔も体に効いてきたし、もう意識を手放しそうだ

次目覚めた時は、ちゃんと見えるだろうか






落ちていた意識がぼんやりと浮かんでくる
薄い闇の向こうに光が見えた
そうして開いた瞳は、多くの光を脳に伝達する


「どうだ?」

「………。」


見慣れない部屋を見渡せば、そこには2人の男性が居た
どちらも知ってる


「ミホーク、さん。」

「見えるか?」


そうだ、この違和感
違和感と呼ぶのは相応しくないか、でも昨日までとは全く違う感覚
視野が広がった……視野が戻った


「見え、ます……。」

「成功したな。」

「外科医のくせに上手くやるものだな。」


右目のまばたきの感覚がおかしい
恐る恐る手を当ててみれば、無くしたと諦めていたものがそこにはあった

あの日無くした右目が、戻ってきたんだ
思わず顔が緩む
事実に体が付いていかず、鼓動は周りにも聞こえるんじゃないかというくらい大きく響いている


「あんたの目の色は珍しいからね。同じ色が無くて悪いけど。」

「い、いえ!もう右目は使えないって思ってたから……すごく、嬉しい!」

「はは、そりゃよかった。」


左目と同じ色じゃないけど、似てない紅い瞳だけど
それでもまた両目で見れるというだけで、もうあたしは感無量だった

ローグタウンから出航したあたしは、結局付くまでどこに向かっているかわからなかった
だからこそ着いて目的を聞いたときは、本当にびっくりした
まさか無くなった目を取り戻せるとは思ってなかったから……


「ミホークさん、ローさん………本当にありがとうございます!」

「俺は仕事をしたまでだ。……まぁカンナがどうしてもって言うなら、チップくらい貰ってもいいけど…」

「さぁ行くぞカンナ。」


ローさんに手を取られ体ごと引き寄せられたのを、ミホークさんが思いっきり引っ張ってそのまま部屋を出る
行きも帰りも本当に唐突だ、順序ってものが全くない
その速さにローさんも苦笑いを浮かべていた
再び目を与えてくれた恩人にお礼を大きな声で叫び、先に出てしまったミホークさんの後を追いかける

たぶん真っ直ぐ船の方に向かってるんだろうけど、次もまた唐突にどこかに連れて行ってくれるんだろうか


「カンナよ、お前はどうしたい。」

「……どうって、今からですか?」

「お前が進みたい道を進めばいい。」


その言葉に思考を廻らせれば、特にやりたいことなど無いという答えがすぐ出た
襲撃された客船の被害者達は海軍によって手厚く供養されたと聞いているし、今両親の墓へ行くのも何か違う気がする

「あたしは………まだ、ミホークさんに何も返せてません。傷の治療もこの右目も、全部ミホークさんに救ってもらったものだから。」

救ってもらった命を粗末には絶対したくない
でも、あたしはあのときシンシアやお婆さんを助けたように、誰かを助ける力が欲しい
ミホークさんがあたしを救ってくれたように


「強く、なりたいです……。」


その言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか、彼は何も言わず船に乗り込んだ
行きのように後ろに乗っていいのかも分からず、ただその場に立ち尽くす


「半端な覚悟では死ぬぞ。」

「救ってもらった命、半端な覚悟で投げ出そうなんて思いません……。」






「それならば、乗るがいい。強き娘、カンナよ。」


「……はい!」


ここからあたしの人生は大きく変化した
幼くなった代償で手に入れた力
それから2年後


彼の隣にいることが当たり前になるだなんて、誰が予想できたか




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あきゅろす。
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