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06


空に浮くような違和感が体を包み込んだ
その感覚に酔いしれる前に、頭が勝手に覚醒した

闇の次に見えたのは……眩い程の光


「……あぁ、目覚められましたか?」

「……。」

「気分はどうですか?痛いところはありませんか……って痛いところは沢山ありますよね。」


そう言って微笑む顔に見覚えはなかった
というよりも、この場所に見覚えが全くない

あのまま意識を失って、それで……


「あたし、死んで…なかったの?」

確かに目の前は大きな闇だったはず
あの船はどうなった?
シンシアは?あの薬をくれた老婆は?

「ええ、生きていますよ。本当に紙一重でしたけど。」

そう言って思い切り笑っている
いや、そこ絶対に爆笑するところじゃないし…
溜め息と共に視線を部屋中に向ければ、あたしが使っていた父の大鎌が横に立てかけられていた


「あ、そういえば、貴女と一緒に船に乗っていた女性たちは無事に近くの島に着いたそうですよ。」

「!!……そっか、よかったぁ。」


彼女達が無事なら何も問題ない
むしろあたしも生きている、これ以上ない喜びだ

でも……


「着いたそうですってことは、あたしを助けてくれたのは貴女じゃないの?」

「はい。あたしはこの街の医者です。」

「そ、か……。助けてくれたのは、誰なの?」


よく見れば体中の傷が手当てされている
殆どが包帯に包まれている為、今の格好はミイラと言っても違和感がない
両手を動かしてみると、痛みは感じるけどまだ使えるようだ

自分の体を見下ろす
やっぱり、副作用っていうのは……


「起きたか。」

聞き覚えのある低い声が部屋に響く
低く、芯のある声
その主はベッドの横に備えられた椅子に腰を掛けた

目が合うと、まるで縫い付けられるかのような威圧に押された
一番最初に思い浮かんだのは、鷹の目だった
そう比喩するのが相応しい


「あら、ミホークさん。……この方ですよ、貴女をここまで連れてきたのは。」

「……貴方が。ありがとう、ございます。」


礼にかまわん、とだけ呟き背中の荷を降ろした
厳密に言えば荷じゃない
大きな十字架のような大剣、軽く身長を超えるような漆黒の剣

その鷹の目は、簡単にこの身を強張らせる


「お前の身より大きな服は、血で染まっていたので処分した。あれではもう着れまい?」

「そう、ですね。すいません、お手数を……。」

気を使ったのか、さっき話をしてくれていた医者の女性は席を外した
静寂がこの場の雰囲気をより重くする
あぁ……こういう場は苦手だ


何か声を出そうと思った矢先、彼が核心を突く

「体が縮んだか?」

「っ!……そう、みたいです。」


自分でも信じられないけど、たぶんこれが副作用
20歳のあたしの体は身体能力を莫大的に上げる為、その代償として14、15歳くらいの体に戻っていた
あの薬を飲んで確かに力、脚力、そして生命力……全てが20歳の時よりも秀でている
それはシンシアを助けたときに既に感じていた

船で起こったこと全てを彼に話せば、難しい顔を崩すことなく考えているようだった
どうやら違和感を感じたミホークさんが、あたしが倒れた直後に船に現れたらしい
そのまま船に乗っていても小さな村にすぐ着くけど、傷が深すぎる為あたしだけミホークさんが大きな街に連れてきてくれたみたいだ

「死を恐れぬのか?」

「ん、まぁ死のうとしてたくらいなんで。……彼女達が生きてると知って、死ねないなと思ったから。」


あの場で誰も生き残ってなければ、あたしは確実に死んでいた
両親を目の前で失った絶望、1人しか居ないという孤独、大切なものが一瞬にして消えた惨劇


「あたしが今も生きているのは、彼女達が居たから。彼女達が死ぬほうが遥かに怖かった。だから自分の死を恐れる余裕なんてなかったんです。」

「右目を失っても、か。」


彼の言葉に小さく笑った
そう、体が縮んだ上に右目はもう見えない
たぶん見えないと言うより、目が無いんだと思う
まばたきする度に痛みと違和感が体中に走る


「強き者よ。お前の名は何という?」

「……カンナ、です。」


強くなんてない
あたしが強いと言うのなら、
……両親を亡くすことはなかったのだから




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