[携帯モード] [URL送信]

GREENER 駄文小説(長編)
04th:#2
 
 
 双従者の片割れを選んだ魔術騎士。
 死地を救われた狼。
 <教皇>足り得るためにはあと一つ、あと一つ足りない。


 一人と一匹は街道から離れ、獣道を歩いていた。

「犬っコロ、本当にこっちであっているのか? 」

(失礼な、私は狼ですよ)

「――もふらせろよ」

(断ります)

 ヘシターの漠然とした話を聞いた狼は廃棄された遺跡へ案内していた。

 端から見ればヘシターの独り言だが、狼と会話を交わしつつ、歩き続けた。

 鬱蒼と茂った森の中、同じ場所を歩き続けている錯覚に陥る寸前。

 視界が開けた。

「これは……また……」

 感嘆のため息を吐いたヘシターの眼前には、何時の時代に造られた判らない神殿が建っていた。

「年期が入ってそうなのに劣化無しか」

 壁を伝うつるや苔

 <スフォルツァ>の影響で人の生活圏が縮小したとは言え、今まで発見報告がなかったことが不思議だ。

 ヘシターはあの似非聖職者が秘匿していたのかと疑ったが、人が訪れた気配そのものが魔術で関知できなかった。

 それとも、入るための条件があるのか?

(入らないのですか)

 足を止めた主人を待つ狼の声で、ヘシターは頭を切り替えた。

「すぐに行く。中に入ったら離れるなよ」

 一人と一匹の姿が神殿の中に飲み込まれていった。


 始めにヘシター達を歓迎したのは魔法生物や罠ではなく、持ち主が白骨化した騎士鎧達だった。

 あちこちに転がっている騎士鎧から、此処が重要な場所だったのだと見当をつけた。

(奥に行ってみますか)

「行ってみるか」

 残骸を一瞥したヘシターは狼を伴い、神殿の奥へ進む。

 奥へ進むにつれ、残骸の数と壁に刻まれた魔術の印が増えていった。

 分れ道はなく、ただ一直線の道。

 大扉に辿り着いたヘシターは何かを察知して、一歩分だけ下がった。

「お出迎えが古い魔術構成とは泣けるな」

 音も無く立ち上がったのは時代の流れで中身を失った騎士鎧。

 持ち主をなくした幾本もの聖剣が宙に浮かび、切っ先を向ける。

「忠誠は尊敬するが、もう眠れ」

 言葉と共に腰鞘から迸った黒い魔力が、騎士鎧と聖剣を飲み込み、執念を貪りつくす。

 見えない獣が咀嚼し、噛み砕く。

 ――見えない獣。

 その見えない相手に狼は畏怖し、後ろ足が退がった

 ヘシターは腰鞘の魔力を解き、扉に対面した。
 
 


[*:前へ][#:次へ]

32/36ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!