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GREENER 駄文小説(長編)
20 敗戦=サーディス


 破壊し尽くされた“デモンズ”が崩れ落ちる。対して、双剣を払い、鞘に納めたフルートが止まった。
「試作機がまだあったとはな」
 その“デモンズ”はディーンの乗る試作型“デモンズ”。試作機が同じコンセプトで実用化され、一面に特化した機体に勝てるはずがなく、足止めにしかならなかった。
「そうか、総隊長のディーンか……」
 試作機で思い出したフルートだったが、敗者を始末するよりも大事なことを優先させた。
「アサクラが待っている」
 慕情に染まった憎悪の声が、敗者を素通りしていった。
「私は殺す価値がないということか」
 ディーンの声は狂笑に変わっていく。
 軍の真実に気づいたために研究部に人体実験され、数日おきに薬を投与しないと拒絶反応を起こす体に変えられ、データを取るために心身を削られた。
 やっとの思いで拒絶反応を軽減する術を施し、軍の目を欺いて離反し、辺境で反乱組織“シュレティンガー”を作り上げ、軍に抵抗する反乱組織までにしたこのディーンを……。
 無価値だと。
 無意味だったと吐き捨てた。
「復讐鬼となってやる、必ず後悔させる」
 崩れ落ちた機体は動かず、生物兵器ケージの群に飲み込まれていった。
 ――ここから、先。
 反乱組織“シュレティンガー”を結成したディーンの姿が消える。

 ――アサクラ!
 ――アサクラ!
 アサクラの四文字が頭を占めたフルートが、構える二機へ双剣を投擲した。
 さらに加速したフルートは手を伸ばせば届くアサクラに腕を伸ばした。
「やっと逢えたぞ、アサクラ・トオル!」
「フルート……」
 足元に双剣が刺さった意味を理解したトオルは身構えた。
 足元に攻撃してから姿を表すのは、トオルがフルートに使った決め手だった。
「実に待った。近衛指揮官候補になったアサクラと逢う機会がなくなってから、随分と待たされた。ついにきたこの日、今こそ戦おう」
 返事を待たずにフルートが動く。とっさに足元の双剣を引き抜いて投げ捨てたトオルはフルートの攻撃に備える。
 直後、装甲に衝撃が走った。
 フルートの拳は吸い込まれるように何度も何度も、“ブリット”の胸板に打撃を加えていく。
 時折交ざる足技を二の腕で塞ぎ、フェイントを見切る。それでも、機体に補佐された差は埋められない。
 連撃の速さについていけなくなったトオルはフェイントを入れると下がった。
「コール!」
「任せてよ」
 カチ、
 タイミングを計っていたコールが兵器を起動させた。
 フルートの眼前の空間が焦げ臭くなると“アルバ・デモンズ”の一部を切り裂いていた。
 切り裂くというよりは断裂させたほうが正しい装甲の傷跡。
「生憎と断裂兵器は慣れている」
 装甲を見ればダメージを受けているのに、なんともないフルートは事無気に吐き捨てた。
 空間に亀裂を発生させ、物体を分断する断裂兵器ヴァイラス。
 それが、たった今コールが使った兵器だ。
 予備動作なしの不可視攻撃の被害を抑えたフルートが異常なだけだ。
「邪魔をするなら先に始末させてもらうぞ」
「相手が違うだろ」
 銃剣ミョルニールのブースターを点火。加速された剣がフルートに突き進む。迫る剣に対して、身を捌いたフルートはトオルの内側に潜り込む。そうはさせじと片腕で、フルートが入る隙間を潰す。
 隙間が塞がれたのを察したフルートは膝蹴りを叩き込む。片腕で受けたトオルの体が揺らぐ。受け止められたフルートはブースターを吹し、残った軸足でトオルから遠ざかった。
 一見すれば押しているが、トオルの顔が強張る。フルートの退がった位置には双剣の片方が転がっている。
「義手になったと聞いていたが遜色ないようだな」
 得物を拾い上げたフルートが突進してくる。身構えたトオルの眼前で姿が掻き消え、気づいた時には真横からの斬撃が迫る。
「――っ」
 どちらの声か分からない舌打ちを、甲高い悲鳴が打ち消した。
 悲鳴を上げたのはトオルが盾にした銃剣ミョルニール。衝撃を利用して、もう一本の剣を取りに行ったフルートは違和感を覚えた。
 サーディスの件で意識していたが、トオルはまだ一度も、マインワイヤーを使っていない。
 考えても仕方ないと判断し、双剣を構え直したフルートは攻勢に移る。銃剣から放たれた銃弾を双剣で払い、トオルに肉薄する。刃を突き立てる前に、迫った小型ミサイル群のせいで間を空けた。
「いつまでも語らいたいが、遊びは終わりにしよう」
 フルートの本気がくる。
 察したトオルだったが、“ブリッド”の胸部が切り裂かれていた。立て続けに装甲に亀裂が入っていく。
 
 視認できない。
 武器を振るうも空を斬るばかりで、フルートそのものが視認できない。
「熱源追尾」
『イエス、マイマスター』
 人工知能がその場にいる熱源の中で、移動する熱源だけに照準を合わせる。弾き出した答えは「不在」。  フルートの影が視界の隅に見えた途端、脚部の機能が死んだアラートが鳴る。ちらりと見れば、真っ赤な液体が両足から流れ出ていた。
『弱くなったアサクラ。肩透かしをくらった気分だ』
 フルートの声が聞こえているのに、姿が分からない。攻撃の瞬間は傍にいるはずなのに、同時に違う箇所の装甲が切られた。
 コールから見れば、トオル一人が勝手に傷ついていっている。所々に砂煙が上がるが、何処からか生まれた気流に吹かれて消える。
 幻影になったフルートが姿を表した時には“ブリッド”に傷がない場所はなかった。
 装甲諸共、回路を切断されて動かなくなった“ブリッド”は徐々に赤くなっていく。装甲を彩る赤は流れていくトオルの血。
 一番深い傷は両足を真横に走った線。線は装甲を貫いて、皮膚、筋肉、骨までを切り裂いていた。無事な反対側の装甲で支えられているだけで、誰かが押せば倒れてしまう。
「隊長、――ボクが」
 守るためにコールが、両者の間に割り込んだ。気休めだと分かっていても、腰に差していた槍をフルートに向ける。
 槍先がカタカタと震えているのを見て取ったフルートが呟いた。
「鬼子母神か……」
 フルートという悪魔に、立ち向かうには同じ者にならなければならない。
 殺意に押されたコールが後退りをした……。


 トオルがフルートと戦い始める前。
 アクリア隊が戻って来て、“ゲート・アイオーン”を積んだトラックを破壊したこと知ったサーディスはケージを蹴散らしていた。
「副ッ、アクリアの指揮下につけ。アレイから撤退命令が出るはずだ、素直に従っとけよ」
『隊長は』
 減速せずに、むしろ敵に取り込まれるのを誘う動きに何かを感じた副が詰問する。
「あぁ、ちょくら、バカを迎えに行ってくるわ。お嬢ちゃんたちも動いてるしよ。あとは任せたぜ」
 言葉を切り、レーダー上でトオルを確認したサーディスは障害物を破壊していった。

 そして、今。
 サーディスはフルートと接近戦を繰り広げていた。
「お嬢ちゃん、早くトオルを連れて下がりな」
「私がアサクラを逃がすとでも?」
 剣と剣がぶつかりあう。
「二回戦だ。手負いの獣を相手にしてみたいだろ?」
「それほどの価値があるとは思わないな」
 振り払おうとしたフルートの一撃を刺突剣ゲシュタルで防いだサーディス。剣から手を離し、フルートの肩を掴むとサブミッションを極ようと腕を絡める。察したフルートは片方のブースターを吹して、サーディスの姿勢を崩す。
「早く行ってくれ、エリスとセティアのお嬢ちゃんも近くまで来てるはずだ三人なら突破できるだろ」
「サーディス!」
「嬉しいねぇ、少女に名前呼ばれんのはっ」
 安否を気づかったコールだったが、サーディスの背中から感じた意志を尊重する。
 コールは脚部の装甲で立っているトオルを背負うと一目散に基地へとブースターを吹した。
「くっ、逃がしはしない」
「どこに行くってんだよ、ちゃんと前菜ぐらい食べてほしいな」
 駆けようとしたフルートを刺突剣で止めたサーディスの唇が笑みを象った。
 フルートの姿が掻き消え、サーディスも動く。
 姿が見えない相手と何撃も斬り合う。剣の火花が舞い踊り、剣風が舞った。
 瞬きの間にサーディスの左腕がなくなり、“アルバ・デモンズ”のブースターが破壊された。
「腕一本でブースターかよ……」
 左肘から先を切断されたサーディスの動きが止まりかける。好機とばかりに迫るフルートを視認した途端、サーディスは腰から針を投擲した。
「――針?」
 ただの針以上の武器だと看破したフルートは針を迂回する。
「もういっちょうッ」
 刺突剣を腰に戻し、返し手で針を数本掴むとフルートの進路に投げた。
「防ぐべきか……」
 ブースターを破壊され、推進力が減った“アルバ・デモンズ”では回避した後の隙が危ない。
 双剣を盾代わりに構え、アームガードで顔を守る。意識はサーディスに向けたままに。
「シュクル、解放」
 針状の投擲兵器シュクル。
 細いシュクルの中から、さらに小型の針が飛び出し、全周囲拡散していく。
 フルートの視界に広がった針は、フルートそのものを削るために走る。
 投擲兵器シュクルは刺突剣ゲシュタルの小型版。始めから投擲用のため、威力はゲシュタルの針に匹敵する。
 大抵は弾かれてしまうが、装甲の隙間に滑り込んだ針が機体の回路を切断していく。
 ガクリと膝が落ちたのを見たサーディスは腰の刺突剣を構え直し、フルートに突き刺す。
 フルートは投擲兵器シュクルで動きを止められていたが、腰を回して刺突剣に肩を向けた。
 装甲を貫いて、肩を貫通した刺突剣。肩から生えた剣先がフルートの顔に後一歩のところまで届いていた。
 しかし、それだけだ。
 サーディスは後一歩を踏み出すことができなかった。何故なら、両足は切断されていた。
「肝を冷やしたぞ」
 冷静に告げるフルート。その手に握られた剣に血糊がべったりとついていた。
 サーディスが刺突剣を突出すのを察した途端、体を守るために肩を差し出すのと、片方の剣で装甲を切り開き、もう片方の剣で脚を切断するのを同時に行なっていた。
「……やっぱ、勝てねぇか」
 突き出した刺突剣の先に諦めを悟ったサーディスはフルートに振るい剥された。地面に叩きつけられた男の双眸はまだ死んではいない。
 左肘先と両足は切断され、刺突剣を突出した際に右腕を切り開くかのように縦筋の傷が入っていた。
 ――出血死。
 どう足掻いてもサーディスに残されたのはたった一つだった。
「――システム解放。“デュランダル”オーバーロード許可」
 “ロード”の装甲が外れて、必要最小限の骨組みになるとブースターが点火された。
「“デュランダル”っ」
 初めて、フルートの顔色が変わる。
 トオルは“デュランダル”の機能が装甲を解除してエネルギー節約と機動性向上だと思っていたが、違った。
 吸引するのに邪魔な装甲を解除し、空気中のエネルギーを取り込んで原動力とする一種の無限機関。
 それが反逆の蒼い機体“デュランダル”の正体。
 既に意識が無くなりかけていたサーディスに反して、機体が動く。
 最大出力のブースターで移動、反応しきれなかったフルートに刺突剣の三段突き。
 双剣で弾かれるが最後の一撃が入る。
 戦場でたった一機になったサーディスへ生物兵器ケージが殺到するも、最大出力を活かして圧倒していく。
「鴉、梟……。撤退する」
『はい』
『分かりました』
 二機の“デモンズ”に撤退命令を下すと、生物兵器ケージを相手に戦い続ける“ロード”を見た。
「“デュランダル”と戦うには分が悪いか」
 “アルバ・デモンズ”の特化したブースターは破壊されており、高速戦闘ができなくなっていた。
 鴉と梟が合流した後、フルートは戦場を撤退した。

 基地を放棄した反乱組織は追撃してくる生物兵器ケージを倒しつつ、非常時用の隠れ家へと辿り着いていた。
 真っ先に重傷者を医療に回した。その中に両足を切断された総隊長トオルも含まれていた。
 多数の部隊とともに総隊長ディーンは生死不明。
 反乱組織を束ねる二人が無理だと分かると兵士から士気がなくなっていた。
「どうなるのでしょうね、私たちは……」
 全責任者となったアレイが呟いた言葉に誰も答えられなかった。




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