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GREENER 駄文小説(長編)
18 不進退


 トオルたちの動きはスムーズなものとは言えなかった。
 見所のある一般兵を小隊長にしたり、役割を分けたりして、組織を動かしていたが圧倒的に強化外骨格兵装の数が足りなかった。
 強化外骨格兵装は言わば、武器であり兵士である。重火器を運用でき、小回りが効き、敵遭遇時はそのまま戦闘ができる。
 近代兵器の中でもトップクラスの利便性を誇っていた。
 基地を襲撃して機体を奪取し、払い下げ品を人様には言えないルートで手に入れていた。
「なんでボクまで」
 不満タラタラのコールを連れたトオルは路地裏のさらに奥にいた。
 トオルが突き当たった壁のシミがある箇所を数回ノックすると、壁の向こう側つまり、壁中から声がした。
「合言葉は」
 咎める声にトオルは再度、壁をノックした。
「よし、入れ」
 シミの近くがスライドすると合言葉を言わなかった二人を招いた。
「へ〜、内側はハイテクなんだね。てっきり、掘ったままかと思ったよ。それにしても、トオルは合言葉言ってないよね?」
「ブラフだブラフ。合言葉言おうものなら、ほら」
 トオルが指差した壁の隅をよく見れば、二本の溝があった。
「スライドして、バババーンてな」
 上げた手で銃を形作り、コールを撃つ。トオルの動作にコールはげんなりとした。
「サーディスに毒されたね……」
 二人が歩いている途中で、赤外線が何度も二人を検査していった。
「これで五回目だよ、まったく」
「それほど扱ってる品がデカいってことだよ」
 場に出るまでに赤外線検査八回、ゲート四回の厳重ぶりだった。
 広場へ出ると丸いテーブルに座った男性がたった一人、一人だけいた。
「お前らが客だな。――さっさと商売を始めよう、こっちは後が控えている」
「奇遇だな、こっちもだ」
 テーブルに着いたトオルとコール。
「大層なチェックだったが護衛はいなくていいのか?」
「なに、あのアサクラ・トオルだ。数ある商人の中でも私を選んでくれたことに敬意を表したまでだよ」
「……商売といこう」
「事前に渡してくれた目録の物を全て集められなかったが、これ以上集めることができる商人はいないと自負している」
 商人がスイッチを押すと左右の壁がスライドし、ずらりと並ぶ強化外骨格兵装と箱に詰められた弾薬が姿を表した。
「粗悪品は掴ませないさ、少しばかり割高だがね」
 見積もりを渡されたトオルは希望金額を断り、商人との商談に入った。
「――高過ぎだ、話しにならない」
「他に揃えられる商人がいるとでも?」
「確かにいないだろうが……、もうじき規制が厳しくなる。そうなれば、この量を捌けるとは思えないな」
「安くするにしてもメリットを提示して貰えなければ」
「これから先、軍と戦っていく。そこで得た技術をいくらか売ろう」
「……投資か」
「損はない、流されない技術を独占できる利益は。総隊長と交わす約束を信用できないのか?」
「いいだろう、運び出すなら人をやる。振り込む際はこちらが指定する数ヵ所に振りこんで貰う」
「この場で確認しなくていいのか?」
「アサクラ・トオルが教わった人物に命を助けられたことがあってな、貸し借りを無くすだけだ」
 貸し借りだけで済ませられない内容だけにトオルはためらった。それがトオルの恩師が関わっているとなれば尚更だ。
「さぁ、受け渡しは済んだ。さっさと帰ってもらおうか」
 にべもない態度で二人を追い払った商人は呟いた。
「命の価値は弾丸一発分より軽いと思ってきたが、ツケが溜まり過ぎたか」
 脳裏に浮かぶのは、片腕を犠牲にしてまで助けてくれた盟友。
「アサクラ・トオルもアイツと同じ道か……笑い話にもなりはしない」
 渇いた嘲笑が響いていた。

 町から出た二台のトラックが街道を外れて、人目につかないように大回りして基地へ向かう。
 武器を積んだトラックの助手席に座ったトオルは横目に商人が用意した運転手を様子見た。
「危害を一切加えず、丁寧に応対しろと命じられています」
「――向こうもか」
 くいっと視線を逸して、もう一台のトラックを示す。
「女性だと言って変わりません。私たちの失態が全体に及ぶとなると」
 小さい声で「私たちが殺される」と続けた顔は恐怖が垣間見えた。
 これならコールに手がかからないと安心したトオルだったが、急停止したトラックで安全がないことを察知した。
「どうしたッ」
 運転手はハンドル横からキーボードを引き抜き、指を走らせると襲ってきた何かを特定した。
「識別信号不明の機体が四つだ、ロックは固定されている……」
 窓がモニターに早変わりして、トオルに現状を知らせた。
 トラック前に一機、左右に一機ずつ、最後の一機は高台に陣取っていた。
「機体は使えるな」
「いつでも使えますが」
 トオルは疑問の視線を向ける運転手を無視して、運転席から荷台に移るとコールに繋いだ。
『どうするの。ボクは準備できてるけど』
「コールは左右を、俺が前と上を叩く」
『武器使うからね』
 若干不貞腐れた声色がトオルの指示を待つ。
 買い取ったばかりの中古品を装着し、運転手に合図をすると荷台が左右に開いていく。
 荷台中でブースターを温めていたトオルは天井に光の線が引かれると同時に跳んだ。
 荷台から跳び出た二機に反応が遅れた賊は不幸だった。
 跳んだトオルの連射が前方の一機を滅多撃ちにする。
 双銃を構え、左右に腕を開いたコールが自動掃射で、左右の二機を行動不能に追い込んだ。
「こんなのアリかよ!」
 高台に陣取った一機が吐き捨てるように言い放ち、照準を合わせてトリガーを引こうとしたが遅かった。
 アラートが喧しく鳴り、視界を銃から離すと刃が喉元に刺さっていた。
 スコープ拡大。
 宙に滞空する機体が構える銃がニードルガンの改良したものだと分かる前に、次々刺さる刃が思考を分断した。
 重力に引かれ、滞空を終えたトオルがコールのほうを見た。
 撃ち尽くした左右の銃を手から落とすと、両腕が腰の双銃に伸び、しゃがんだ状態で連射を開始した。
 上空にいるトオルから見ても、装甲を削り、貫通している弾丸が何発も敵を抉っていた。
 スタッ、と脚でバランスを取って着地したトオルは始めに撃った一機の搭乗者の尋問を始めた。


 一番最初に気づいたのは訓練をつけていたサーディスだった。
「トラック? 案外早いな」
 トラックにしては大型。武器類を積むには心もとないサイズのトラックが、基地に向かってきていた。
「呼びかけたか?」
 トラックを見た他の兵がざわめくのを感じて、指令室に通信を入れた。
『いえ、こちらからの通信を受け付けません』
「警戒体制だ。早くしろ、トオルだったときはオレが誤魔化す」
『は、はい』
 責任を取るのではなくて、誤魔化すのがサーディスたる所以か。
「鬼と出るか、蛇と出るか……。頼むから悪魔だけは出ないでくれよ」
 トラックが走りながら、荷台の壁を左右に開いた。身構えるサーディス。
 倍率を上げたスコープに映ったのは、人と機体が融合された生物兵器ケージが次々に荷台から吐き出される悪夢。
「ここにきてケージかよ」
 生物兵器ケージ。
 人間のクローン体が未熟成長の時に機体と融合させ、神経路を電子回路に組み込んだ異形の機体。
 峡谷爆破作戦の時に突如現れ、トオルとサーディスを危機に陥らせ、トオルの片腕がなくなった原因の一つ。
 基地を拠点にしている間に付近のケージを掃討していたが、ここに来られるまで気づけなかった偵察隊に怒りが沸いた。
「ま、やるしかないな」
 腰鞘の刺突剣ゲシュタルを引き抜き、腰溜めに構える。
『出撃したほうが』
「いや、一波は食い止める。二波と相手できないヤツが出てきたら頼む」
 出撃しようとしたディーンを止めて、サーディスは迫り来る敵の群に一番近い場所を陣取った。
 サーディスの後ろには勝手知ったる副とサーディス隊の面々。少し後ろに援護射撃させるだけの新兵がいた。
「サーディス隊のヤロウども、イくぞ!」
 指揮官の命令一つでブースターを吹し、生物兵器ケージの群と激突した。
 乱戦と言うには生易しく、銃を撃てば必ず当たる密度の中で、サーディス隊は基地までの壁となった。
「おっらぁ」
 立ち塞がった生物兵器ケージの体に刺突剣ゲシュタルを突き刺し、剣の中から針を突き出させて体内を蹂躙したサーディスは死体を弾除けに使った。
「やっぱ、“ゲート・アイオーン”か」
 サーディスの睨む遥か先には、群を補充し続けて停止したトラック。
 群を掻き分けてトラックを破壊しに行きたいが、離れるとバランスが崩れてしまう。
 副一人に任せるワケにもいかない。かといって、制限付きのディーンを使う気にはなれない。
 お嬢ちゃんたちを使うか?
 いや、アクリアと他方の基地攻めで今はいない。
「バーンズのおっさんぐらいしかいないか」
「誰がおっさんだ若造」
「さっきから背中が軽いと思ったら、援護付きだったのかよ。やってらんねぇ〜」
「軽口を叩く暇があるならまだいけるな」
 いつの間にか、背中を守っていたバーンズは他の兵を守るために次へ向かう。
「ここはバーンズのおっさんに任せれば保つか……」
 指揮官に向かないと自嘲するサーディスだが、戦いの嗅覚はトオルより高い。
「ちっ、しっかりやれってんだよ」
 崩れかけている場所を維持するためにサーディスが動こうとした時に通信が入った。
『そこにいると巻き込まれますよ、退避してくださいね』
 一方的に通信を切られた直後にアラートが鳴った。予測地点をゴーグルに映し出すと、今から全力で逃げないと巻き込まれる攻撃範囲だった。
「あの科学者ぁぁぁぁ!」
 気がつけば、味方が誰一人攻撃範囲内にいない。たった一人、たった一人のサーディスに生物兵器ケージが殺到してきた。
 熱い抱擁をブースターをスライドに吹して避けて、迫る銃弾を横にいた肉塊を剣で突き刺して盾にする、落ちた速度に追撃してくる敵に肉塊を放り投げる、僅かに空いた隙間に駆け込む、待ち構えていた斧をアームガードで逸す、よろけたが体を一回転させて体勢を立て直す、攻撃範囲を確認するがまだ抜けていない。
 視界の隅にカウントが表示された。
「じょ、冗談だろ、冗談だと言ってくれ」
 ブースターの出力を増やして、前にいる敵に刺突剣ゲシュタルを突き刺した。
「ちょっと盾になってくれよ」
 生物兵器ケージの盾を突き出して、突進していく様は突撃槍。
 ブースターを吹して攻撃範囲から逃げる。ゴーグル内のカウントダウンと距離が合わない。
 カウントが二になった時点で、サーディスは盾にしていた肉塊を上に放り投げる。続いて、突き刺しては上に放り投げる動作を繰り返す。
 肉塊の屋根ができた直後、高出力のエネルギーが降ってきた。
「アホだろ……」
 仮にも、主力の隊長だぞ。これは絶対、オレを狙った。
 幻聴で、アレイの笑い声が聞こえる気がした。
 即席で作った肉塊の屋根が消滅する前に、サーディスは突撃を再開する。先と違うのは地面への突撃だということ。
 刺突剣ゲシュタルのギミックを使い、ドリルのように回転させて穴を掘る。一機分の穴に入り、両腕で頭を守った。
「賭けだな」
 サーディスの視界には、こんがり焼かれる肉塊の屋根と高出力のエネルギーが降ってくる。
「くそ、くそっ」
 衝撃による激しい縦揺れに平衡感覚が狂いそうになった。
 安全になったと判断したサーディスは目の前の肉塊を払い除け、姿勢制御用のブースターを使って穴が上がる。
「……機体が要らない日も近いんじゃねぇの?」
 飛び込んだ視界は、円形に穿たれた地面と原型を残さない生物兵器ケージの群。
 一瞬で広範囲を焼き尽くす威力。その中心部にいたと思うとサーディスの背中に冷や汗が流れた。
「固定されたら死ぬしかねぇな……」
 地面に潜るのも、とっさに盾を作ったから生存できた。次はどうかと問われると自信がない。
「あぁぁぁ、電波障害だと」
 状況を確認しようと通信を行なうが、返ってくるのはノイズばかりで反応がない。
「ん?」
 レーダーも性能が下がり、警戒したサーディスは遠くに動く何かを見つけた。
 レーザー直撃地を占領するよりも群に合流したほうが侵攻としては正しい。
 一機よりも集団戦。
 それが正しい、対機体戦。
「見つかったか……」
 仲間に合流したいサーディスに駆けてくる一機。たった一機に嫌な予感がしたサーディスが銃を構えると同時に、相手が掻き消えてサーディスの懐に潜りこんでいた。
「――ちぃ」
 下から振り上げられた刃が銃を破壊し、別方向からきた刃が装甲を切り裂いた。
 一気にブースターを限界まで吹してサーディスはバックした。先程まで居た場所に突き刺さる刃は、頭と心臓の位置を正確に突いていた。




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