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GREENER 駄文小説(長編)
02 訓練から出撃へ


「愚か者がっ!何故、研究兵器を使わなかった。お前に与えた命令を復唱してみろ!」
「研究中の兵器を用いて成果をあげることです」
「では何故、用いなかった。強化外骨格兵装を自ら使ったのかね」
「緊急出撃によるイレギュラー及び、“スフィンクス”が私合わせて二名だったため指揮官自ら戦前に出た次第です」
 低い唸り声が場を占める。中央に青年。囲むように壁際には老人達が並んでいた。
 まるで、裁判を受ける被告人のようだ。
「分からんことはない。少ない人員をいかに効率的に運用するかと問われれば、同じことをしただろう」
「翁! それでは“リミオン”の意味がないですぞ」
「黙れ、戯け者が」
 最高老議会の中で最高権力者である翁が、ざわめく議会を沈めた。
「アサクラ指揮官、今回は大目に見よう。何も知らず本番だったのだ。しかし、次はないと思え」
「畏まりました」
「これにて最高老議会を終了する」
 翁の宣言で終わった。

「ほら、コーヒー」
「サンキュ、生きた心地がしなかったよ」
 同僚からコーヒーを受け取るとソファに背を預けた。見て、忍び笑いを漏らす同僚。
「アクリア、笑い事じゃないんだけど」
「すまない、すまない。トオルがこんな境遇になるとは思いもしなかったものだから」
 ニヤける男装の女性、アクリア・サレス。
 アサクラ・トオルと同じ部隊に所属したことがあり、遊撃のエキスパートだったりする。
「俺の機体まだ戻らないのか、随分経っただろ」
「馬鹿をいうな。制御回路融解、複層装甲破壊、システムダウン、本来ならスクラップ行きだ」
「それを直していると」
「お陰で整備班は悲鳴をあげてるよ」
「あれから……」
「……早いな」
 トオルが口に出そうとした事柄を強引に塞ぎ、二人合わせたようにコーヒーを飲み終わる。
「…………」
「…………行くのか?」
「ああ、行ってくる」
「機体は任せてもらおうか。近々完成させる」
「任せた」
 紙コップをゴミ箱に捨てるとレストルームを後にした。


 スフィンクス”のブリーフィングルームに入った途端目眩がした。
「あっ、トオルさん」
 嬉しそうに駆け寄るエリス。しかし、格好が頂けない。
 ――スクール水着。
 女性専用の強化外骨格兵装のインナースーツを着ているのだが、戦闘後のままだった。
 当然、あちこち擦り切れているわけで。
「トオルさん?」
 小首を傾げて、伺う姿は子犬のよう。僅かに見え隠れする肌のせいで、脳が危険信号を発する。
「とりあえず、着替えてくれないかな」
「着替える?」
「戦闘は終わってるんだ、ラフでいいよ」
「トオルさんは正装ですよ。何かあるんですか?」
 隊服と違い、襟首、階級証、白い肩紐が追加されていた。
「何かあった後だけどね。俺も着替えてくるから、また後でな」
 手をヒラヒラさせて、自分に割り当てられたプライベートルームに入った。

 清潔な白一色の部屋。
「鉄鋼むき出しよりはマシか……」
 正装をロッカーに仕舞い、ラフなジャケットと青のジーンズを取り出す。
 手早く着替えると、渡された資料にざっと目を通す。読み終わり、もう一度読み返す。
『バファメット』
『ナクア』
『チェーン・コック』
『ヴァイラス』
『ローグランサー』
『リミオン』
 取り分け、気になったのが六個の単語。兵装の類だというのは分かる。
「リミオン……」
 資料には人体図と科学で用いられる専門用語がびっしりと書かれていた。
 分かるのは理解不能ということ。
「俺は科学者じゃない」
 溜息をついて、資料をデスクに放り投げた。
 廊下に人の気配がしたのでブリーフィングルームに戻った。
 ソファにちょこんと座っていたエリスがいた。着ていたのはシックな淡い黄色のワンピース。
 白かったら病院の貫頭衣だなという最悪の発言を飲み込んだ。
「なかなか、可愛いじゃないか」
「本当に似合ってますか?ある服を選んだだけなんですけど」
「似合ってるよ。自分を落とさなくていい」
 空気がへんな方向に流れたので、仕切り直すためにキッチンへ逃げる。
 いくつかある紅茶からダージリンを選び、手際良く淹れる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます、良い匂いですね」
 受け取ったカップから薫る紅茶を味わうエリス。
 ソファを動かし、体をエリスに向ける。
「さてと、聞いてなかったことを尋ねるようか」
 尋問官のように顔を引き締める。
「君はどこの部隊に所属していた?」
「部隊ですか……」
「見たことのない強化外骨格兵装、あれはなんだ」
 言葉に詰まるエリスを無視して続ける。
「強化外骨格兵装操縦中でありながら、ロックせずに正確な射撃、どこで訓練した」
 …………。
「最後、君は何者だ?」
 静まり返り、耳が痛くなる寸前でエリスの頭に手が伸びる。
 ――殴られる。
 そう思った途端体がびくっとなったが、違った。
「怖がらせたかな? 新人は必ずこれをされる儀式だよ。正直、俺自身尋問は嫌いでね。したくなかったけど、しておかないと煩い人がいるんだ。すまない」
 アクリアが居れば「生温いな、もっと厳しくしよう。ああ、したほうが良い」と発言している。
「あの、トオルさん」
「えっと、なにかな?」
「私、所属……したことないんです」
「所属したことがない」
「はい。外の人と関わりを持つの初めてです」
「初めて? 単独行動じゃなくて?」
「……はい」
「ま、慣れていけばいい。幸い、この隊は人がいないから俺で練習かな」
「……あの、普段から隊長って呼ばないとダメですか?」
「さっきは作戦中だっただろ。何もないときは好きに呼んでくれて構わない。俺はエリスで呼ばせてもらうから」
「はい、トオルさん」
「さてと、トレーニングでもしようか。エリスは何ができる」
「一通りなら」
「う〜ん、強化外骨格兵装は無理だから、射撃練習にするか」
 ソファを立つと、真後ろをエリスがついてきた。

 トレーニングルーム、練習部屋とは名ばかりで、出撃準備と模擬戦ができる広間である。
「これ使ってくれる?」
 渡したのは、マニュアル式の銃。受け取ったエリスは、即座にロックポイントに狙いを定めた。
「ターゲット無力化まで、続行」
 奥にあったターゲット・複数の人型の模型がランダムで動き、ターゲットポインタ。赤い光がエリスに向けられる。
 ピピッ、
 センサーが認知する前に、トリガーを引いて模型を無力化する。その場から飛び退きサイドに流れる。いた位置に四方からセンサーの雨が突き刺さる。
 人型の模型たちは自在に動き回り、エリスを包囲していく。
 エリスは視界に写る度にトリガーを引く、引く、引く。道ができると残骸、人型の模型を盾にして姿勢を保つ。
 後ろから編隊を組んだ一群が迫る。一般人なら焦りで動けないところを冷静に対処し、突破口を開く。
 包囲、突破。
 包囲、突破。
 包囲、突破。
 繰り返し、幾度となく同じことの繰り返しだが単調ではない。
 突破される度に狡猾になる人型の模型。
 包囲される度に素早くなるエリス。
 終わりそうにない成長がそこにはあった。
 壁際で見ていたからこそ気づいたが、緻密にエリスが誘導されている。
 人型の模型は倒されても、一定時間が立てば動き出す。
 エリスは良く保っているほうだと思う。機械対人間、どちらが勝つかと言えば人間だ。しかし、持久力では?
 疲労がない機械だ。
「そろそろだな」
 トオルは次の番に備えて、銃を確かめる。同じマニュアル式の銃。
 終了のベルが鳴った。
 視線を戻せば、エリスが角に追い込まれ、額にセンサーが当てられていた。
「お疲れ様」
「――――」
 戻ってきたエリスは肩で息をしており、反応をしなかった。
 入れ替わるようにトオルが人型の模型に立つ。
 人型の模型が動き出す。同時に、姿勢を低くして前方に走り込む。反応できない模型の足元に潜り込むとトリガーを引く。
 倒れてくる模型を蹴り飛し、道を作ると駆けた。
 常に道を二つ保つことに専念する。
 狙わず撃つ。
 脚で蹴り倒す。
 ステップで逃げる。
 必ず人型の模型を盾にして動いていく。
 後は繰り返す中に、リズムを変えた攻撃を忍ばせる。囲まれれば脚払いで体勢を崩し、下から銃口を上げるように連射する。
 そして、アラームが終了を告げた。
 生気を失った模型は力なく停止し、中央にトオル一人残された。
「これぐらいか」
 トリガーから指を外して、自然体に戻ったトオルがいた。口を開けて呆けていたエリスは信じられないものを見るような目をしていた。
「エリスは銃に頼りすぎかな。体も使わないと、どうしようもないときが来る。強化外骨格兵装同士になるとなおさらだな」
「は、はい」
「休憩したら、もう一度しようか。単独の後は組んでみよう」
「お願いします」
 しっかりとした声に、トオルは頷いた。


 始めてから数時間後。
 疲労が溜まったトオルと元気なエリス。
「回復が早いな。鍛えないといけないか」
「い、いえ、トオルさんは凄いです。始まったらすぐに体調が戻ってます。私はミスばかりして……」
「初めての相手で息が合わないのは当然だよ。俺も息まで合わせられない」
「そうなんですか?」
「そうだよ。悪いけど飲み物取ってきてくれるか」
「待っててくださいね」
 跳ねるようにキッチンに急ぐエリスを見据えて思った。
「兵装乗りが、新人に負けるなんてな」
 ポテンシャルならばエリスのほうが上。まだ開花してないだけの話だ。
「いずれ、越されるな」
 独白する。
 途中からエリスのフォローに回っていたが、回数を重ねる度に上達していく。まるで、スポンジに水を吸い込ませるように。
「あれで初なんて、どこから連れてきたんだよ」
 並以上の上達速度。
 疲れ知らずの回復力。
 異常としか思えない。
「強化兵?」
 いや違う。強化兵なら精神障害が発生している。一度だけ強化兵を指揮したから、誰よりも分かる。
 となれば?
「トオルさん、これでいいですか?」
 目の前にエリスがいた。手には麦茶が注がれたコップ。
「トオルさん?」
「……あ、悪い。少し考え事をしていた」
「はい、どうぞ」
 受け取り、麦茶を喉に通す。生き返ったような気分になる。
『“スフィンクス”アサクラ指揮官。至急、統合司令室まで起こしください。繰り返します……』
「生き返って、また死ねとでもいうつもりか?」
 スピーカーに皮肉をぶつけるが返事は連絡事項の繰り返し。
「トオルさん?」
「エリスは待機しててくれ、行ってくる」
 疲労気味の体に喝を入れて統合司令室に急いだ。

 最上階のフロアを全てぶち抜ぬいて統合司令室となっている。
 着くなり、強化外骨格兵装の兵士にボディチェックを受ける。
「安全を確認した」
 促されて入ると統合司令室は水をうったように静かだった。
 いや、静かすぎた。皆、円形に座り顔色が優れなかった。
「アサクラ指揮官、座るといい」
「失礼します」
「これで全員だな。――集まってもらったのは他でもない。この状況をどうするかだ!」
 中央にフルスクリーンが投影される。3Dで作られたマップの中央部に基地、周囲に点在するマーカーが徐々に増えていた。
「指揮官、前線と作戦に関わった諸君なら分かると思うが基地は包囲されつつある」
「司令官、敵はどのように防衛線及び警戒網を突破したのでしょうか?」
「不明だ……。監視システムに反応はなく、まるで突然降って湧いたように出現した」
「“ゲート・アイオーン”の可能性は?」
「微量の反応を検知しています」
 指揮官の問いにオペレーターが答える。
「情報をスクリーンに提示してくれ」
 フルスクリーンが点滅すると、各種情報が現われる。状況は悪い。
「トオル、どう見る?」
「アクリア、定石なら突破口を開き、挟撃に走るべきだが」
「ん、突破? 突破ならオレの部隊に任せな」
「サーディス……。定石ならと言っただろ。今回は違う、“ゲート・アイオーン”が起動すれば戦力が書き代わる」
 アクリア、サーディスとともに話し合う。時折、他の指揮官の意見も聞く。
 ようやく、話が纏まりをみせた。
「苦肉の作だが、各指揮官には部隊を率いて撃破してもらう。情報は司令室から送る。“ゲート・アイオーン”が観測され次第、全指揮官に緊急連絡を行なう。こちらからの緊急連絡までは緊急連絡用の回線を使用しないこととする」
 司令官は響き渡る声で告げると指揮官たちは自分がすることのため、走り出した。
「二人でどうやって戦えと……」
「頑張りなさいトオル」
「編隊してやろうか?」
「……」
「うちはハードだがな」
「遠慮しとく」
「そっか、またな」
「ああ」
サーディスは激戦を予想して体が喜びに震えていた。見ていた二人は揃って口に出した。
「マゾだ」

 “スフィンクス”に戻るとエリスに状況を手短に説明し、強化外骨格兵装に身を包んだ。
「出撃する」
「はい!」
 ブースターが火を吹く。飛び出した前には敵の群がなしていた。




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