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GREENER 駄文小説(長編)
05 ‐狗‐


「あいたたた……」
 頭痛に意識が叩き起こされ、体を上げると見慣れた場所だった。
「僕の部屋……」
 大家さんにあてがわれた一室の布団に僕はいた。
「目ぇ覚めたか」
 白湯を飲んでいた大家さんは湯飲みを置くと僕に向き直った。
「帰ってこねぇから様子見に行ったら倒れておったから驚いたぁぞ」
「えっと、僕は」
 犬の牙を含めた口内が眼前に迫っていたのと大家さんが醸し出す雰囲気にギャップを感じた僕は「自分が生きている」ことを実感した。
「犬に嫌な思い出でもあったか?」
「え、えぇ、小さい時にちょっと噛まれまして」
「ま、人様には色々あっからなぁ」
 在り来たり過ぎる答えに自分を納得させた大家さんは蓮四郎のワケアリを探るのを諦めた。
「いいか若造、人ってもんわな、生きりゃナンボだ。……家族に愛想尽かされたモンが言える言葉じゃぁないがなぁ」
「――――」
「ちょっと待ってろ、軽いもんを持ってくるわぁ」
 大家さんが片膝を上げたところで、僕は大家さんが言った言葉を反芻した上で答えを出した。
「大家さん」
 はっきりと意志を持った言葉が強いことを僕は今になって知った。
「僕は故郷に帰ろうと思います。逃げ出した故郷に」
「……帰るのか、寂しくなるなぁ」
 僕の目をじっと見つめてから、言葉を吐き出した大家さんから止めるという選択肢はなかった。
「で、何時出る?」
「思い立ったが吉日という言葉がありますから、今すぐにでも」
「はははっ、ほんとぉに急だな。よし、ちょっと待ってろ、駄賃をまとめくっから」
 白湯を持ったまま出ていく、優しい老人の背中に僕は頭を下げた。
 
「すいませんでした。そして、ありがとうございました」
 
 ――ごめんなさい。




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