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GREENER 駄文小説(長編)
10 人形及び介入前


 立場の違う五名、トオル、サーディス、アクリア、エリス、セティアたちが戦場で対面している時。

 ――軍の研究部にある研究室に話は変わる。
「…………」
 治療用カプセルの培養液の中で沈黙を守る少年がいた。カプセルの周囲で計器と奮闘する白衣姿の研究員たち。
 それを壁際で冷ややかに眺める黒髪黒眼の男性。
「アサクラの紛い物か」
 手元の資料には、アサクラ・トオルの愛機“トール”から弾き出された身体能力が数値として分析されていた。
「“デュランダル”の乗り手なら、高い身体値が見込めますからね」
「それで、どうするつもりだ?」
 男性はこの研究室の責任者に尋ねる。
「人為的に作れるなら、弱い兵がいらなくなりますからね。いかに強い兵を作り上げるかと効率を求めた結果ですよ」
「紛い物が、本人に勝てるワケなかろう……」
「何か言いましたか?」
「いや、なんでもない」
 呟きを聞き取れなかった責任者が尋ねたが、男性は質問をかわした。
「そろそろ、起動するでしょう。試しに手合わせしてみませんか」
 二人の目の前で、カプセルから出て来た少年の体に電極をつけていく研究員の姿があった。
 バイタル数値正常無し、シナプス異常無し、認識能力異常無し、生体回路異常無し……。
 計器が指す正常値に安定したと判断した研究員たちは強化外骨格兵装に生まれたばかりの少年を押し込めた。
 意志に関わらず、機体に詰められた人形同然の相手を見て、男性は憐れみを感じた。
「殺しても良いな?」
 口から自然に出た言葉は殺害予告。
「ええ、プロトタイプは廃棄する処理ですからご自由に」
 それに対する研究員の答えは容認。
「悪趣味だな」
「なんとでもどうぞ。あなたも、その犠牲の上になりたっていることをお忘れなく……」
「分かっている。分かっていてこそ、言ったんだ」
 名前を呼ばれた男性は責任者の言葉を振り切り、愛機が待つ格納庫に行った。
 フルートは黒一色の強化外骨格兵装に乗り込み、研究部用に設けられた試験場へ進み出た。
 試験場の広さは各部隊に与えられる訓練場のゆうに五倍ほど。
 研究員たちが見物する展望室や、試験に用いるものを管理する場所を含めると実質的な広さは違う。
「……」
 だが、試験に使われる物にとって自らが動く場所以外は関係ないのが事実。
 野球選手がプレイヤーとしての価値を発揮するのは野球場内での話だ。場外ではプレイヤーとしての価値はない。
「まだか」
『焦らないでくれないか。初運用なのでね、こちらとしても慎重なのだよ』

「慎重の割には使い捨てなのだな」
 フルートの前には開閉式の壁から排出された強化外骨格兵装が三体、陣形を組んでいた。
『アサクラ・トオルと同じ“トール”を用意できなかったが、代品として“デモンズ”を用意した。存分にデータを提供してほしい』
 展望室で、生み出した子供の成果を楽しみにする親たちは送られて来るデータを待つ。
 対して、フルートは機体に乗せられた人間モドキを楽にするために向かった。
 三体の人工人間が乗る“デモンズ”という機体は、当時最強を誇った“デュランダル”の継続機として製造された機体。
 ――現最強機体。
 フルートが乗る機体も同じ“デモンズ”であるが、ベースが同じだけで改造されている。
 フルートが乗るのは名前を冠する“デモンズ・シリーズ”の一機。
 フルートは腰鞘から剣を引き抜き、ブースターを吹し、三体との間合いを一気に詰める。
 通常の強化外骨格兵装が亀に思える速度で、フルートの機体は移動していた。
 フルートに一番近い“デモンズ”が標準武装の剣で迎え打つ。
「アサクラ以外だな」
 相手の出方を見たフルートは一言呟き、相対した敵が姿を捉える前に剣諸共上半身と下半身を断斬した。
 開始早々、一人を失った残りはフルートから距離をとった左右に位置していた。
 始めから、一機は相手を窺う偵察と役割を振っており、残った二機が挟撃し、倒すという犠牲が出ること前提の戦法。
 武器を構えて左右から来る二機に対して、フルートは空いた手を別の腰鞘に伸ばし、床を踏みつけて腰を作ると挟撃に構えた。
 前衛役が迫り、両手に構えた剣でフルートと鍔競り合う。前衛役への対処が終わる前に後衛役がフルートへ剣を突き出す。
「――」
 紙一重で刺突をかわし、腰鞘に添えていた腕を動かした。
 ――――。
 たった一動作で、新たに姿を現した剣によって後衛役の体が分断されていた。
 新しい剣は止まることなく、手を塞がれた前衛役の体を貫いた。
 力が緩んだ瞬間に、防御に回していた剣を振り下ろす。止まることなく、ブースターでバックした。
 この戦いは開始から僅か数分で終わった。
「実戦以下だな」
 倒した三体を冷徹に見下したフルートは内心で舌打ちをした。
 “デモンズ・シリーズ”で名を冠する自機の性能を発揮することなく終ったことが、フルートにとって何よりの不満。
 研究成果を見物していた研究員たちに同様が走っていると分かっていて、試験場を後にした。
 瞬殺といっていい結果に終わった研究員たちの子どもたちは残骸を試験場に散らかすだけ。
 この結果を予測していたが、『フルートに勝ったことのあるトオルのデータ』三体分が数分で負けるとは思わなかった。
 出来の悪さに苦悩するも、次の段階に進められる喜びに研究員たちは打ち震えていた。
 結果さえ出せばどうでもいいという胸糞悪い研究部をフルートは嫌いだった。
 ――フルートは思う。
 強者はその者が自ら願った故の結果であり、作られた仮初の強さは呆気なく瓦解する。
 強かった自分が弱者だったトオルに負けた過去から、フルートは敗北を知り、逢い見えるのを楽しみにしていた。
 フルートがアサクラ・トオル反逆の報を知るのは後のこと。


 同じ頃、他国で動きがあった。他国からは国内紛争にしか見られていなかっただけに介入する国はなかった。
 ここに例外が存在する。

 女性が3Dマップを眺めていた。
「国内紛争にしては動きが面白いわね」
 戦いの履歴を辿ると組織的な動きやテロの動きがあるのが分かる。その中に不自然な動きがある。
 前触れもなく、軍隊並の部隊が現れ、気づけば次の戦場にいる。
 大まかな被害状況しか入ってこないので詳細は分からないが、とても興味深い。
「現われる度に戦力が変わるのは何か……」
 新たな資料をデータから呼び出すが、はっきりとした確証は得られなかった。
「何か、何かあるはずなのよ。何かなければオカシイ」
 通常の国五つ分の領土を持つ大国とはいえ、国内紛争を鎮静させることなく、継続させるなど国として不自然。
 街そのものを移動要塞にした軍事施設を東西南北に二つづつ配置できる軍事力があるというのに。
「意図的に紛争を起こさせている?」
 首を傾げるとポニーテールに括られた黒髪が揺れる。
 自国の独立部隊の一つを任されている身としては、とても気になる。
 国外まで足を運べる偵察部隊と違い、国内のみという限定条件の下で自由行動が取れる独立部隊には叶わないことだった。
 命令系統に組み込まれて身動きが取れない部隊に比べれば遥かにマシだという事実はこの際、黙殺した。
「偵察部隊に組み込んでもらって、いえ、独立部隊の越権行為をするしか……」
 ブツブツとポニーテールの女性は物騒なことを呟く。
 思考の渦にはまり込み、呼び出しに気づいていなかった。
 何度呼ぶアナウンスに比例して、女性の思考は深みにハマっていく。
 強化外骨格兵装……、当初は人間の部位を補佐するだけの兵装。それを人間が操縦する機体まで技術を上げ、実際に駆動する代物まで作り上げた大国。その脅威を世界に知らせめたのは世界戦争の時。戦車並の攻撃力を持つ歩兵に対抗する間もなく他国は窮地に追いやられた。
 あるとき、青い機体、通称“デュランダル”が全機暴走するという原因不能のアクシデントが発生。戦場を支配していた強化外骨格兵装の暴走は世界戦争から対“デュランダル”戦に移行することになる。
 多大な犠牲を払って鎮静した戦争は大国にダメージを負わせたが、大国はすぐさま次の機体“デモンズ”を運用する。
 ――まるで、暴走することが分かっていたかのような代替。
 通常の強化外骨格兵装でさえ手強いのに、さらに“デモンズ”が加わり大国の攻防に隙間はなくなった。
 そして、しばらくしてからの国内紛争。
 情報規制を行い、紛争の詳細は分からないまま。
 介入を拒絶し、紛争を続けさせることのメリットは……。
「定石なら国自体が疲弊して終わるのに」
 五つ分の国から成る大国に疲弊はない。
「……実験場?」
 幾つもの事柄から一つの解を選び出した。他の解と確証の差はないが、解に一番近いと思えた。
 そうでなければ、部隊がぶつかる戦闘毎に武装が強化されていっている理由がない。
 試験兵器だとしても、あの完成度は異常の一言に尽きる。
 規模が小競り合いの程度でさえ武装の弱点が分かった途端、二週間ほどで改善された武装に変わっている。
 弱点が分かった時点で作りなおしても、研究、製造、運輸含めて、二週間で戦線に届かない。届くはずがない。
「国内で高い実用段階まで試した後に投入してきてるとしか……」
 回収した武装の残骸を調べてみると高い技術力を使っていることが分かった。代償として払った犠牲は大きかったが。
 ――何かがある。
 いつの間にか止んだアナウンスに気づかないまま、データを睨んでいた。
「おい、ファル」
 声と同時に女性の頭に衝撃が走った。
「な、なにするんですか上官」
 揺れるポニーテールの頭を抑えこまれたファル・エアハルトは抗議の声をあげた。
 抗議を黙殺した上官が通達をファルに投げて寄越した。
「これは?」
「あの内紛の大国を調べてこい。詳細は書いてある、目を通しておけ」
「――」
「受諾するかどうかは指揮官であるお前に一任する」
 都合良く降って湧いた命令書。ファルは疑惑を抱えたまま上官の退出を見送った。
 次いで、書面を読む。

『独立部隊“フレスベルグ”ファル・エアハルト指揮官率いる部隊に大国への潜入調査を任命する。
 なお、任命を拒否する権限はあるものとする。
 任命に応じる場合は定刻に所定の位置にて待機。任務時の詳細は応じてから追って連絡する。』

「……乗せられましょうか」
 国外活動を制限されている独立部隊への国外活動許可を受けて、即決即断した女性指揮官の姿は部屋から消えていた。




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