花の宴(三成)
月夜の晩、松明の明かりに満開の桜が浮かび上がる。

「今宵は天候にも恵まれ絶好の花見日和じゃ。みな存分に楽しむがよい。」

その桜の下、太閤秀吉の挨拶で始まる賑やかな宴。

名だたる大名達や武将達が酒豪のせいか、次から次へと酒を持って行けどもすぐになくなってしまい女中達は目が回るような急がしさだった。




「三成、紗耶がおらぬがどうした?」

杯を空けた兼続が三成に問う。
紗耶は三成の幼なじみ。いつもは左近とともに執務を補佐し、たいていは三成のそばにいて何かと世話を焼いている。

「紗耶さんは宴の手伝いをしてるんですよ。」

左近が三成に代わって答える。

「きっと人手が足りないだろうからと。せっかくの花見を皆さんに楽しんで欲しいって言われましてね。」

「紗耶殿らしいですが、よろしいのですか?」

幸村が尋ねると三成はグイッと酒をあおった。

ふぅと息をつく。

「見ての通りですよ。」

眉間に刻まれた深いシワが不機嫌を物語っている。

「人の気も知らずあいつは…。」

三成は紗耶に宴の手伝いなどさせたくなかった。

三成にとって紗耶はただの幼なじみなどではない。

幼き頃に『いつかは自分の伴侶に』と決めた相手だった。

その愛しい女が酒の席、酔った男達に言い寄られやしないか気が気でないのだ。


空いた杯に左近が酒を注ぐ。

「…ふん。男に酌されてもうれしくないな。」

「それはすいませんねぇ。」

「心配で堪らないと言うわけだな。やきもちをやく三成が見れるとはな。」

兼続が嬉しそうに笑い、苛立ちを隠せない三成はすぐに酒を飲み干した。

次第に酔いが回ってきたのか三成の顔に赤みがさす。

そんな三成の視界に入って来たのは紗耶が他の男に腕を取られている姿だった。





「お離し下さい。」

「良いではないか。そなたのような可憐な華に酌をしてもらいたいだけだ。」

「私はお酒をお持ちするだけの者ですので、酌は他の方にお申しつけ下さい。」

やんわり断ったつもりだった。だが男の手は紗耶の手を離さないどころか、締め付けるように強く掴んだ。

「私の酌が出来ぬと申すか!」
「いえ、そのような」

紗耶が痛みに耐えているとすぐにその手が解かれ、男は引き攣った顔で紗耶の後方を見ている

「こ、これは治部少輔殿!」

「この者は私の部下だが、何かそそうでもしたか。」

振り返り見上げれば冷ややかな笑みを男に投げかける三成がいる。

「い、いえ!とんでもございません。」

「ならば連れて行って構わんな。ゆっくり飲むがいい。」

「はっ、はい!」

怯える男を背に三成は紗耶の腕をとり無言で歩きだすと、宴の席から遠く離れた桜の木の下で足を止めた。

「三成…怒ってるの?」

背を向けたままだが、怒っているのはすぐわかる。

「あのね、酌しろって言われて断ったらあの人怒っちゃったの。三成に迷惑かかっちゃったよね、ごめん。お酌くらいしたら良かったかな。」

申し訳なさそうに話す紗耶に振り返った三成はため息をつく。

「違うだろ。」

「はい?」

「酌うんぬんの話ではない。迷惑とか、そんな事じゃなくて。」「なくて?」

「お前がその…あんな風にされるのが嫌だったんだ。」

「なんで?」

「なんでって…。」

きょとんとした顔で三成を見上げる紗耶に三成は呆れつつも笑い出した。

「なっ何がおかしいの?」

まるで鈍い紗耶と、そんな鈍い女が好きな自分がなんだか可笑しく思えた。

そうとう酔いが回ってる。
三成はそう思った。


「ちょっと三成ったら!?」

何故笑われてるのか気にしつつも、最近見なくなった三成の笑う姿につられ紗耶も自然と笑っていた。



桜の木を風が揺らし、花びらが舞う。

「綺麗だね。」

そう言って微笑む紗耶を三成は愛しく思う。

「あぁ、綺麗だな。
紗耶、ここで二人きりで飲まないか?」

綺麗な桜だからこそともに愛でたいと思った。
三成がそう言うと紗耶は少し考えてから頷く。

「そうだね。たまには幼なじみで飲むのもいいね、佐吉。」

にっこり笑って紗耶が酒をもらいに行った。

「そういう意味ではないが…やはり鈍いな。」

舞い散る桜の花に、やって来る春を願い三成は微笑んだ。













三成がやきもちやきだったって話。

紗耶ちゃんが大好きなのに、ちっともわかってくれず、やけ酒って話。

結局、なんだかなぁって話です。

すみません。


でも三成さんにやきもちやいてほしいよね。

お題配布『緋桜の輝き、』様



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あきゅろす。
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