春に溶けるまどろみ(二兵衛)


「紗耶、こんなとこに居たんだ。捜したよ。」


書庫の整理をしていた紗耶のところに半兵衛がやって来た。


「何か御用ですか?」


「そうだよ。君に用があるんだ。ちょっと一緒に来てよ。」


「えっ?ちょっと待ってくださ…。私は書庫の整理を」


「いいから来てよ。」


困惑する紗耶の手を引いてにこにこと笑う半兵衛。


他人の視線も気にせずに紗耶の手を握ったままたどり着いたのは城の中の大きな桜の木。


「ほら見てよ。満開でしょ。」


「綺麗ですね。」


広がる桜色の景色に紗耶は微笑んだ。


「そうでしょ。じゃあ、ここに座って。」


半兵衛は紗耶を木の根本に座らせるとその膝に頭を乗せた。


「じゃあ少し寝るから。おやすみ。」


「はっ半兵衛様!?困ります!」


突然のひざ枕に紗耶は困惑していた。


豊臣に仕えるようになってから憧れの軍司と大勢いる軍司見習いとしてとしての関係でしか無かったのに、いきなりの接近。

半兵衛が昼寝をしているところは見かけたことがあるが、それほど親しくない自分がなぜひざ枕をするのかわからなかった。


「どうして困るのさ。」


半兵衛は寝転んだまま紗耶を見上げている。


「だって、その…。」


半兵衛の大きな瞳に見つめられ答えに困る。
もちろん嫌なわけでもなく、むしろ嬉しいと言っても過言ではない。
でも他人の目というものがある。あらぬ噂をたてられれば互いにとっても良くないはずだ。




「半兵衛、こんなとこで何をしている。」


その時現れたのは官兵衛だった。紗耶は驚いたが半兵衛はまるで気にしていない。


「見てわかんない?昼寝だよ。官兵衛殿こそこんなとこまでなんの用?」


「卿に用があるのではない。紗耶、頼みたい仕事があるのだが。」


官兵衛は赤く頬を染める紗耶に視線を移した。


「私にですか?わかりました。あの…半兵衛様…。」


「だーめ。まだ俺の用事が終わっていないんだから。」


半兵衛は起き上がるどころかそのまま紗耶の腰に手を廻して離れようとしない。
さらに紗耶が頬を赤く染め離すように言うが半兵衛は無視して言葉を続けた。


「でもさ、官兵衛殿でも仕事を御指名の上にわざわざ出向いたりするんだ。そんなに紗耶が気にいってるの?」


「私は信頼出来る者にしか仕事は頼まない。それだけの事。今の言葉は卿にそっくり返そう。」


「俺?俺は見てわかるでしょ。とにかく官兵衛殿、俺の方が先だから後にしてよね。」

官兵衛に背を向けたまま半兵衛が言うと頬を赤らめる紗耶が困って官兵衛を見上げる。

「官兵衛様…あの…。」


「仕方あるまい。ならば半兵衛の用事が終わるまで待たせてもらおう。」


官兵衛は紗耶の隣に座った。


「お仕事はよろしいのですか官兵衛様!?」


「たまには休息をとるのも良いだろう。」


官兵衛は頭上に広がる桜を見上げわずかに表情を和らげる。


「ちぇ。邪魔されたくないけど官兵衛殿ならいいか。
官兵衛殿、やっぱり好みも合うんだよね俺達?」


「卿がそう思うのならそうだろう。」



半兵衛だけでなく官兵衛まで。憧れの両軍司に囲まれて紗耶の胸がドキドキと音をたてて二人の会話すら耳に入らなかった。



(憧れの両軍司がこんなに近くに!?落ち着いて心臓!)

(官兵衛殿も紗耶が好きなんだ。強力なライバルだなぁ。)

(半兵衛が相手ならよほどの策を練らないといけないようだ。)



満開の桜の下、それぞれの想いは穏やかな春のまどろみにとけていく
















二度目の春は二兵衛から。

二兵衛にかまわれてみたかったのですよ。

半兵衛はストレートに愛情表現してくるけど、官兵衛は引きつつ引き寄せる?みたいなイメージです。

今度は半兵衛と空を飛びたいな。


お題配布『zinc』様



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