もう少し、ゆっくり歩こう(兼続)


「…ちょっと待ってよぉ。」


長い階段を登る途中
紗耶が息を切らして立ち止まった。


「この程度の階段で根を上げるなんて紗耶は体力が無いな。」


「こんな長いの無理…。私、兼続と違ってか弱い女の子なんだから…ね!」


息を切らしよほど疲れたのか涙目で私を見上げる 。


もうだめ…と肩を落とした姿に
申し訳なくも可愛いと思ってしまった。

つい笑みが漏れてしまう。



「なんで笑うの〜!」

キッと私を睨む顔も可愛い。
だがそんな事言える訳もなく。

「か弱いなんて言うからだ。」

「どこから見たってか弱いじゃない。兼続目悪いんじゃない?」

「すまないが視力は1.5はある。ほら皆が待っているぞ。」




今夜丘の上にある公園で友人達と花見をする事になっている。

駅を出た所で偶然紗耶と一緒になり共に向かう所だ。


紗耶に手を差し出すと、「ありがとう。」にっこり笑って礼を言い戸惑いもせず私の手を握った。



『少しくらい戸惑ってくれてもいいものを。』

心の中で呟いた。

あくまでもさりげなく。

愛しい者の手に触れる最大のチャンスだ。


愛しくて
少しでも近づきたい。


紗耶に会うたびに思っている。


差し出した手に紗耶がどう答えてくれるか少し期待していた。



簡単に手を取ったという事は、私の事をまるで意識していないのだと思う。


紗耶にとって私はただの友人でしかないのだろう。

残念ながら。


しかし拒否されなかっただけ良いと思うべきだな。




「今日は暖かいね、兼続。」


「あぁ。でも今夜は少し冷えそうだ。」


「そうかなぁ。」


ぽつりぽつり会話しながら
ゆっくり階段を上って行く。






もうすぐ階段が終わってしまう。

そうしたらこの手をほどかなくてはいけないのだ。


離したくない。
離さなければいい。


そんな思いが頭を駆け巡っていた。




「あともう少しだね。」


「そうだ。あと少しの我慢だぞ。」


「………うん。」


力なく返事をした紗耶。
よほど疲れたのだろう。



急に紗耶が立ち止まった。


「どうした?」

紗耶は下を向いている。


「兼続…あのね。」


私の手を強く握った。



「……もう少し、ゆっくり歩こう。」


紗耶の頬が赤く染まっている。



もしかしたら紗耶は…。
なんて期待しても良いのだろうか?




「そうだな。ゆっくり行くとしよう。」



もう少しだけ。
このまま手を繋いでいられるように。















書きかけで放っておいた兼続夢です。(ごめん兼続)


前にもどこかで書いたような話しですみません。

恋をしてドキドキしながら手を繋ぐのが好きみたいです。


お題配布『ひよこ屋』様




(お題一覧/Top)

[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!