うさぎりんごの至福(政宗)

「は…はっくしゅん!」

布団の中でわしは豪快にくしゃみをした。

「政宗ったらやっぱり風邪ひいたじゃない。人の親切断らなきゃ良かったのに。」

「うるさい…。」




それは昨日の事。

城を抜けだし出掛けた城下街。
その途中雨が降り出し、もちろん傘など持ち合わておらぬわしは近くの軒先で雨宿りをしておった。


激しい雨足。
止む気配を見せないそれに諦めかけていたとき

「政宗?」

傘をさした紗耶が現れた。



「雨宿り?まだ雨止まないみたいだよ。」

「そうじゃな。」

「小さい傘だけど一緒に入って行かない?」


にっこり微笑んでお前はそう言うが、どういう事かわかっているか?


小さな傘の下で男と女が、わしとお前が肩寄せあうのじゃぞ。

至近距離にお前が…。


「い、要らぬ世話じゃ!この程度の雨などなんて事ないわ!馬鹿め!」

「えっ!?あっ、ちょっと政宗!風邪ひいちゃうよ!」


お前の止める声も聞かずにわしは雨の中走り出した。



ひとつの傘でお前と城まで行ったらわしの心臓が持たぬわ!


冷たい雨が頬の熱を奪って行くのが気持ち良かった。


そしてこのざまじゃ。
情けない…。



「そんな事があったのですか。それは風邪をひくのも当たり前でしょうな。」


小十郎はにやにやしながらわしを見ておる。

その顔に馬鹿め!と怒鳴りつけてやりたいがその力が出ない。


「ほら政宗、りんご剥いたよ。果物なら食べれるでしょう?」

笑顔で差し出されたのはうさぎのように切られたりんご。


「…いらぬ。」


「りんごも食べれないくらい具合悪いの?」

そう言ってわしの頬に触れ、熱いねと心配そうに覗きこんでいる。



「それは違う熱でしょうね。」

小十郎は額の手ぬぐいを水で冷やし額に乗せた。


「そのりんご、政宗さまが召し上がらないなら小十郎が頂いてよろしいでしょうか?」


「…小十郎。」


「可愛いうさぎですからね。取っておきたい気持ちも分かりますが、食べなくてはもったいないじゃないですか。」


何を言い出すのかと小十郎を睨みつけるが、気にもしていないのか言葉を続ける。



「紗耶が剥いてくれて嬉しいと素直に言うなら今ですよ。でないと小十郎が本当に頂きますよ。」

小十郎の言葉にわしはため息しか出ない。


紗耶がわしのために剥いてくれたうさぎりんごが、嬉しくて愛しくて食べれなかった。

傘の時も、今も素直になれずに「…いらぬ。」などと答えてしまったのだ。




小十郎に隠し事は出来ぬ。



「…わしが食べる。」

そう言うと紗耶はにっこり笑った。



「じゃあ、しっかり召し上がって下さい。」

あとお願いしますと紗耶に告げて小十郎は部屋を出ていった。





「りんご、食べる?」

「あぁ。」


しばしの沈黙の後紗耶に差し出されたうさぎりんごは甘くて少し酸っぱい。


わしの為だけに剥かれたりんごだと思うと、とても旨くてあっという間に無くなってしまった。


「おいしい?」


「もう一個剥いてくれ。」



ぼそりと言えば紗耶はにっこり笑った。


お前が笑うなら、ほんの少し素直になってみるのも悪くないかも知れぬと思った。

「うさぎに剥く?」


「…うさぎに決まっておる馬鹿め。」




















いやぁ、これお題に合っていると言えるのでしょうか?


うさぎりんごがツボだったので無理矢理使ってみました。

政宗様は絶対うさぎりんごが好きだと思う。
あと三成さんもね。


今考えると政宗様に剥いてもらえば良かったなぁ。

いつか別ネタで使いますよ。


お題配布『緋桜の輝き、』様



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