うたた寝する君(三成)
紗耶は盆にお茶をのせ三成の執務室に向かっていた。
数分前のこと。
廊下で書簡を抱えた左近と出会った。
「良いところに!紗耶さん、お願いがあるんですがね。殿にお茶を持って行ってくださいませんか?」
「私がですか?」
「はい。本来なら左近が持って行くところですが、この通り仕事がたくさんでしてね。」
左近は視線を腕に移す。
「わかりました。私でよければ。」
紗耶も最近の三成の様子が気にはなっていた。
有能な三成のところにはたくさんの仕事が集まってくる。
その分寝る間も惜しんでこなさなければならず、姿を見かけることが少なくなっていたのだ。
やっぱり忙しいんだ。少しだけでも、息抜きになると良いけど。
そう思いながら三成の部屋の前で声を掛ける。
が、返事はない。
「…三成さん?開けちゃいますよ?」
紗耶はそっと障子を開ける。
開けてすぐ三成の姿が見えた。紗耶はお茶を持って三成に近づく。
「いるじゃないですか。返事がないからいないと思っちゃ…!」
紗耶が三成の隣に座り茶をだそうとしていた手が止まる。
しばらく動けなかった。
それは三成が器用にも筆を持ったまま、書を書く体勢のまま眠っていたからだ。
近づくまでは長い髪が邪魔して目を閉じているのがわからなかった。
なんて器用な…。
こんな体勢で寝るなんてやっぱり疲れてるよね。
少し寝かせてあげよう。
紗耶は上掛けを用意し、筆記具を片付けにかかる。
起こさないように慎重に。
起きてしまえば三成の事だから仕事再開しかねない。
そうして手から筆を取ったとき三成がバランスを崩した。
大変!机にぶつかっちゃう!
紗耶は慌てて三成の体を引き寄せた。
少し乱暴だったが、三成は起きる気配もなく紗耶の腕の中で寝息をたてている。
よっぽど疲れてるね。これは。
ゆっくりと膝上に三成の頭を乗せ上掛けをかけると子供をあやすように背を軽く叩いていた。
「たまにはゆっくり休んでくださいね。」
ぽつりとつぶやく紗耶の声を実はバランスを崩した時点で目を覚ましていた三成が聞いていた。
すぐに起きていると伝えようと思った。だが膝枕の誘惑に勝てずしばらく狸寝入りしていたのである。
心配かけていたのか…。
激務で眠るヒマさえなかった。
仕事は山ほどある。だが今は…。
心音にも似たリズムと柔らかな膝枕の感触に三成はまたも眠りに落ちていく。
紗耶もまた暖かな日差しに眠気を覚え、子供のようにすやすや眠る三成に微笑みながら小さなあくびをしていた。
穏やかな春の日の出来事だった。
久しぶりの更新です。
春はほんとに眠い。何故だろう。
仕事の虫の三成さんでも眠気には勝てないと思います。
「三成!狸寝入りとは不義だぞ!」(怒)
「そうです三成殿!いらやしいですぞ!」(地団駄)
「ふん。悔しかったら紗耶にしてもらうがよかろう。」(自慢げ)
うん。狸寝入りはいやらしいっす三成さん。
お題配布『緋桜の輝き、』様
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