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嵐の到来・不幸の電話 1/26
 それはのどかな昼下がりのこと。M大文学部学部長に一本の電話が掛かってきた。電話の相手は娘の理沙子である。

「久し振り、父さん」

「理沙子…大学には電話をかけてくるんじゃない」

 部下の宮城と結婚して以来、盆と正月にすら顔をみせない娘からの連絡だ。嬉しい反面、何だか嫌な予感がする。

──我が娘ながら…(この場合は年頃の娘と言うべきか?)何を考えているのかサッパリ分からない。

 心中穏やかならぬ感情を押さえ込み、父親の威厳をもって受け答えする。
そんな学部長の内心の葛藤を知らぬ娘は、父親の予想を遥かに越えた爆弾発言をしてのけたのだ。

「庸に伝えて欲しい事があるんだけど…」

「そんな事は家で直接伝えなさい!」

「仕方無いでしょ!学会の論文書くとかで大学に泊り込んでんだから

 そういえばそうだったな。最近は何かと忙しい時期だ。

「仕方がないな。今回だけだぞ。それで、用件は何だ?」

「私、家を出る事にしたから」

「──は?」

「だからぁ、恋人が出来たの!
彼の家に行く事にしたから!
要る物は一通り鞄に詰めたから、残りの荷物は適当に処分しておいて。家の鍵は離婚が成立したら返すし、ひとまずは別居ね。それじゃ後ヨロシク」

 理沙子は言いたい事だけ言って電話を切った。受話器からは、通話終了を伝える無機質な電子音だけが聞こえてくる。


──いえをでる→家を出る?
  こいびと→恋人?恋人!?

 お前は夫のいる身だろうが!!

──べっきょ。りこん…離婚!?

 電話の内容を把握するのに少し時間が掛かったが、理解したら理解したで衝撃の余り人事不省に陥った学部長であった。


──それはのどかなハズの昼下りの出来事。
床に倒れた学部長が発見されるまで後数分。

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あきゅろす。
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