Mysterious shop and choker. どさり、という音と共に、私は何処かに辿り着いた。辺りは薄暗く、此処が何処であるかという見当はすぐについた。が、正直信じたくないので、とりあえずそこら辺を歩く事にする。 私が着いた所はどうやら何かの店らしく、がらくた程度にしか見えない物が沢山あった。 「──これ…」 ふと、がらくたの中に埋もれるように置いてあったチョーカーが目に留まる。銀のプレートに蝶が描かれ、アメジストが散りばめられた、何の変哲もないただのチョーカーだというのに、何故かとてつもなく惹かれる。 「嬢ちゃん、それ欲しいんやったら持っていき」 「!」 気付いたら、後ろに背の高い男がいた。恐らく店の主人だろうが、いつの間に後ろにいたのだろう? 「どないしはったん?持ってかへん?」 「え、あぁ…良いんですか?」 今となっては懐かしい、母国の方言に少し驚きながら問う。 「ええに決まっとるよ。その子はアンタに"望まれた"子やから」 私が、望んだ? 店主の言葉に首を傾げる。すると、店主はその辺にあった置物を手に取り、笑った。 「この店はな、お客はん一人一人の為にモノを集めてあるんよ。その人に巡り会う為に存在した"品"をな」 「それは凄い、ですね…」 「やろ?せやから、その子は持ってき」 店主が誇らしげにそう言い、一旦持った置物を置く。そのまま私に近寄り、私が持っていたチョーカーを、手慣れた手つきで私の首に付けた。 「あ、お代はっ?」 「かまへんかまへん。それよか嬢ちゃん、ひょっとしてアンタ日本人か?」 手をひらひらと振って、にこっと笑った後、覗き込むように見られる。 「えぇ、そうです」 「せやと思ったわ…いやー久々に同郷に会うたわ。名前聞いてもええ?」 名前を聞かれ、素直に教える。ついでに漢字も教えたら、良い名前だと褒められた。 「ウチはアサギ。漢字やとこう書くんよ」 と、杖で空中に"浅葱"と書く店主。出身を聞くと、やっぱり関西の方の出身らしい。 「──あ、やば」 「どないしはったん?」 暫く浅葱(さん付けで呼んだら怒られた)と話していた私は、ふと重大な事を思い出した。 「連れを、ほったらかしてました…」 杖を買いに屋敷を出た事と、その連れとして私を任されたラバスを忘れていた。どうしよう、真面目に。絶対探してるわよね……もしかしたら、卿さえも。 フルーパウダーを失敗したのを知っている卿だから、有り得ない事じゃない。ラバスはそれすら知らないけど、卿から何らかの連絡が行ったかも知れない。 「…ほな、ちょっと行こか」 「え?」 唐突に腕を掴まれ、そのまま店の外に連れてかれた。それから少し歩いた所で、急に浅葱が止まった。 いきなり何なんだ…? 「アレやろ、炉安の連れ」 浅葱の指差した方向には、血相を変えて此方に走ってくるラバスがいた。その横には、黒猫もいる。………黒猫? 「探したぞ!」 ラバスが私の頭を叩き、怒鳴る。黒猫もにゃあにゃあ鳴いて足を引っ掻いてくる。地味に痛い。 「ゴメン、ちょっと話し込んでて…ね?」 と、後ろを振り向くと、さっきまでいた筈の浅葱がいなくなっていた。 「アレ、何処行った?」 「…お前、一人で何言ってんだ?」 「は?」 訝しげに見てくるラバスに聞けば、私を見つけて走り寄った時、私は一人でいたらしい。けど、私は浅葱といた筈だ。という事は、ラバスには浅葱が見えてなかった…? 「とりあえず、さっさと杖を買いに行け」 不意に卿の声がして、声がした方を見ると、黒猫がいた。その黒猫の瞳は、紅い。 「卿…?」 「全く…一時は心配したが、無事だったようだな」 黒猫の卿が、私の腕にぴょんと乗っかってきた。っ…可愛い!! 「卿、猫になれるんですか?!マジ可愛いんですけど!」 「…コレは、猫のカラダを借りているだけだ」 「じゃあ、憑いてるって事ですか?」 私の言葉に、簡潔に言えばな…と、少し誇らしげに言う卿(黒猫)を一度ぎゅっと抱き締めて、地面に下ろす。 「なら、ちゃっちゃと買い物してくるんで、卿はもう戻って下さい」 こんな魔法はきっと、卿にも猫にも負担がある筈。だから、早く元のカラダに戻って貰った方が、此方も安心する。 そんな私の考えを汲み取ったのか、卿(黒猫)は渋い顔で頷いた。 「ラバスタン、後は頼む」 「御意」 そう言ったと同時に、猫のカラダが淡く光って消えた。 「…にゃあ」 元に戻ったらしい猫の瞳を見ると、紅ではなく紫だった。良かった、ちゃんと戻ってる。 その後、軽く猫の調子を見て、何処も異常がないのを確認して、猫を解放してやった。 「ゴメンねー有難う」 猫を見送って、ラバスに向き直る。ラバスは煩わしそうに私を見てから、スタスタと歩いて行ってしまった。 「ちょ、待ちなさいよ!」 そんなラバスを走って追いかける私の首元には、浅葱から貰ったチョーカーが揺れていた。 Mysterious shop and choker 不思議な店とチョーカー (また逢えるかな…)(今度また来てみよ) . |