The honorific is unnecessary.
朝、目を覚ました私は、未だ見慣れない天井に一瞬驚き、そして思い出した。そういえば私は、ハリポタの世界に来てたんだった。
むくりと起き上がり、顔にかかっていた髪をかきあげる。丁度その時、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞー?」
簡単に身だしなみを整え、返事をする。ガチャリと開いた扉から入ってきたのは、きちんとした格好のルシーだった。
「お早う御座います、ロアン様」
「…おはよ、ルシー」
当たり前のように発せられた様付けに、若干の抵抗を感じつつ挨拶を返す。
「お加減はどうですか?」
「あー…大丈夫」
昨日、急に体調を崩した事を言っているのだろう。アレは卿のお陰で収まったから、今は全く平気だ。
「そうですか。では、我が君が食堂でお待ちですので参りましょう」
「……ルシー、別に敬語でなくて良いよ?」
何か、落ち着かない…そう告げると、困ったような表情になるルシー。別に、困らせたい訳じゃないんだけど。
「ですが、お仕えする身ですから」
「ルシーが仕えてるのは卿であって、私じゃないでしょ。私の世話役なだけなんだし」
ルシーの言葉に、反論するように返す。私は偶々、彼らに世話をして貰う立場になったのだ。そんな私に、彼らが仕える義理はない。
「とりあえず、早く行こうか」
そう言って、さっさと歩き出してしまう。止まらせたのは私だったんだけどね。
食堂への道中、ルシーはやっぱり敬語だった。多分、普段が敬語なのだろう。けれど、敬語は敬語でも、あまり堅苦しくない程度に砕けていて、少し嬉しかった。
「あ、おはよーラバス」
にこにこと笑いながら歩いていれば、食堂前にラバスがいたので、ラバスに声を掛ける。ラバスは何故か眉間に皺を作って、此方を睨んでいた。
「…お早う御座います、ロアン様」
嫌々だという事が見て判る程、嫌な顔をして挨拶をしたラバスに、内心笑ってしまう。やっぱり、ルシーよりラバスの方が似合わないと思うのよ、敬語って。
「さっきルシーにも言ったんだけど、無理して敬語使わなくて良いから」
ラバスには似合わないし、と笑って言えば、意外そうな顔をされた。そんなラバスに口を開こうか迷い、卿を待たせてたのを思い出して、止めた。
「卿、遅くなりました。おはよー御座います」
食堂に入って挨拶をすれば、優雅にモーニングティーを飲んでいた卿が此方に視線を移した。
「もう体調は良いのか?」
「はい、大丈夫ですよ」
心配そうに問われ、にっこり笑って大丈夫だという事をアピールする。
「そうか…それは良かったな」
「御心配をお掛けしました!あ、そうそう…ルシーとラバスに敬語じゃなくて良いって言っちゃったんですけど、良いですよね?」
軽く頭を下げた後、思い出したように言う。わざわざ卿に許可を貰わなきゃならない訳じゃないけど、前もって伝えておいた方が、ルシーやラバスに迷惑がかかる事もない。
そんな事を考えて言ったのだが、二人はあからさまに慌てていた。卿は、一つ頷き了承してくれた。
「今日は、ラバスタンと共に杖を買いに行け」
朝食をとる為に席についた途端、卿にそう言われた。ラバスと一緒に、買い物?しかも、杖を買いに?
……すっごい楽しみなんですけど!
「…あ、でもお金…」
「金は私がラバスタンに渡しておく。ついでに欲しい物も買ってこい」
っ…何て太っ腹なんだろう、この人は!
思わず抱きつきそうになり、ぐっと堪える。
「有難う御座います!お土産買ってきますね!」
そのままお礼だけ言って、ラバスの腕を取る。ラバスは微妙な顔つきだけど、気にしない。さっきの眉間の皺は、多分この事を事前に聞いたからだろう。
「ところで、どうやって行くんですか?」
「姿現し…と言いたい所だが、今回は煙突飛行粉(フルーパウダー)を使う」
それを聞いて、ピタリと一時停止する。何でフルーパウダーなの。絶対違う所(ノクターン)に着くじゃない。まぁ、姿現しも嫌だけどさ。
「私、自信ないわ…」
「?何の自信だ」
「んー何でもないです」
小さく呟いたのによく聴こえたな、卿…と、ちょっとだけ感心して、手を顔の前で振って誤魔化す。
その後、急いで朝食をとり、出掛ける準備をする。
「では、お先に──ダイアゴン横丁!」
ラバスが暖炉に入り、消える。生で見ると、やっぱり凄い仕組みだと思う。
フルーパウダーを一掴み持って、私も暖炉に入る。
「正確に、ハッキリと言うのだぞ?」
郷の言葉に頷いて、フルーパウダーを投げつける。
「ダイアゴ──げほっ…横丁」
思ったよりも粉が舞って、途中でむせてしまった。暖炉から消える直前、卿が凄く焦った顔をしているのが、視界の隅で見えた気がした…
The honorific is unnecessary
敬語なんていらない
(あぁもう、)(やっぱり失敗した…)
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