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It asks for a rice cooker and they are 3000 villages?
「…味噌汁が飲みたい」

いつものように食堂で卿と一緒に朝食を食べている時、ふと思い出したように呟く。
此処に来て早一週間。何かが物足りないとずっと思っていたのだけど、やっとその正体が判った。

「和食…あぁ、米が食べたい」

純日本人で和食好きの私が、一週間も和食を食べていないなんて、今更ながら吃驚だ。

「どうした、ロアン」
「え、あぁ…ちょっと、和食が食べたいなーと思っただけです」

私の呟きに反応した卿に、素直に答える。すると卿は、そんな私の言葉に首を傾げた。

「和食…?」
「日本料理の事ですよ。お刺身とか天ぷらとか、知らないですか?」

判り易く説明しようと、例を出して聞いてみると、卿は知らんな…と呟くように答えた。
そんな卿に、和食を知らないだなんて人生損してるよ!と迫りかけ、すんでのところで思い留まった。



―――…



一度湧いた衝動は、なかなか消えないもので。
さっき卿に説明する為に例を上げた所為で、益々食べたくなってしまった。

「此処の屋敷しもべ妖精って、和食作れます?」
「…いや、無理だと思うが」

朝食を終え少ししてから、答えは判っていたが卿に聞くだけ聞いてみる。が、やはり答えは思っていた通りだった。

「ですよねー…よし、じゃあ作るか」

そうと決まれば即行動!と、立ち上がった私に、卿が制止の声をかける。

「ロアン、何をするつもりだ?」
「今晩は私が和食作ります。楽しみにしてて下さい!」

久々に和食を食べれると思うと、ついテンションが上がってしまう。上機嫌でそう宣言した私を見る卿の顔は、何故か眉間に皺が寄っていた。

「…お前が、料理を…?」

出来るのか、と言いたそうな卿に、むっとする。

「失礼ですよ、卿!こう見えても私、此処に来る前は一人暮らししてたんですからね。料理出来ない訳ないじゃないですか!」

ぶぅっと頬を膨らませて、怒っている事を主張する。
そう、私はトリップする前まで、一人暮らしをしていた。ちゃんと自炊してたし、家事だってこなしていたのだ。…此処に来てからはやらなくなったけど。
私が料理出来るとまだ信じていない様子の卿は、私をじっと見つめた後、少しの間を開けてはぁ…と溜息を漏らした。



―――…



「まずは調理器具の確認して…それから買い出しか」

厨房へとやって来た私は、これからやらなきゃいけない事を整理するように、小さく呟いた。

「よし、じゃあ私が言った物を順番に出していってね!」

厨房にいた屋敷しもべ妖精のフィーズにそう指示を出すと、次々と必要な調理器具を言っていく。
鍋、フライパン、おたま…etc.と、必要な物は揃ってるなーと安心していたら、肝心な物を言っていなかった。

「――炊飯器、って…ある?」

和食と言えば、主食であるお米がなければ意味がない、という位に重要なお米を炊く為の、炊飯器。これがなくては、和食云々の話ではない。
僅かな期待の眼差しをフィーズに向けるも、控えめに首を振られてしまった。

「…やっぱり?あぁーどうしよ……お米ないとかマジないわ」

そうは言っても、ない物はない訳で。
そもそもこの屋敷は、電気というより魔法で明かりを灯している。炊飯器があったとしても、それを動かす為の電力が果たしてこの屋敷に備わっているのかも、微妙な所である。

「……とりあえず、浅葱の店に行くかな」

困った時は同郷の人に頼るべし!という事で、浅葱を頼る事にした。浅葱は日本人だと言っていたから、きっとお米を食べているだろう。…多分、きっと。そう信じて、行ってみるしかない。
そこで私は、大きな問題に直面する。

「あれ、そういや浅葱のお店ってどうやって行けば良いんだろ…?」

数日前に初めて行った時、あれは行ったと言うよりは偶然辿り着いた、と表現した方が合っている。フルーパウダーでダイアゴンに行くつもりが、失敗して浅葱の店に着いたのだから。
それなら、もう一度失敗すれば行けるかも知れない。…あぁでも、今度は違う場所に着いてしまったら?
正確な位置も、店の名前も判らない今の状況では、流石の私もそこまで無計画に行動は出来ない。

「うわ…これはマズイわ。なんとかして浅葱の店に行かなくちゃなのに…」

ドアを開き、少し俯いたままでぶつぶつと呟きながら厨房から出ると、不意に違和感を感じて辺りを見た。

「え、……は?」
「あっれー?どないしたん、炉安。また何か求めて来たん?」

卿の屋敷の厨房から出た筈なのに、何故か目の前には浅葱がいた。そして、目の前に広がる光景も、屋敷の廊下ではなく、以前一度だけ来た事のある浅葱の店そのものだった。

「え、いや、は?何で浅葱が此処に…ってか、あれ?私、厨房から出てきただけよね?何で浅葱の店に…あれ?」
「あー、せやせや。まだ炉安には説明しとらんかったっけ?…とりあえず、ちょい落ち着きや」

軽いパニックに陥る私を、浅葱が落ち着かせる。ポンポンと一定のリズムで頭を撫でられ、次第に落ち着きを取り戻す。

「…落ち着いたか?」
「えっと…うん、大丈夫。で?どういう事なの、これ」
「んー?せやなぁ…多分炉安はうちの常連になりそうやし、説明しよか。――うちの店はな、お客はんがホンマに求めた時にだけ、その場に現れるようになっとるんよ」

そう言って浅葱は、説明を始めた。

「この店の名前は、《Ars magna (アルス・マグナ)》。偉大なる魔術や大いなる秘法という意味がある。
店にあるモノは"品"と呼ばれ、客一人一人に巡り合う為に存在している品を集め、売る店や。
店に入れる者は、求め、選ばれた人間だけで、誰もが簡単に入れる訳やない。店に入りたくても入れん人間なんて、数え切れん位おる。反対に、選ばれた人間の前には、唐突に現れる。
せやからこの店は、存在自体が不確かな、客を選ぶ不思議な店として一部の人間に有名やねん」

長い説明を終えた浅葱は、ふぅ…と息をつく。私は私で、浅葱の説明を頭の中で整理する。要するにこの店は、ホグワーツの必要の部屋のように求めた時に現れ、選ばれた人間だけが物を買う事が出来る…という事か。

「まぁ、細かい話はこんくらいにして…本日は何をお求めですか、お嬢さん?」

悪戯に笑って、恭しく接客を始めた浅葱に、私は目的を思い出した。

「…あぁ、そうだった!色々聞きたい事はあるけど、それどころじゃなかったわ。あのね、炊飯器ってあったりする?」
「炊飯器?あるっちゃあるけど…和食でも作るん?」
「わぁ、ホント?!うん、そうなの。和食好きなのに一週間も食べてなくてさ」

浅葱の一言に、一気にテンションが上がる。ちょっと待っときや〜と言いながら奥へ消えた浅葱は、すぐに炊飯器を持って戻って来た。

「これな、本来なら電気で動かす奴をウチが魔力で動くように変えてん。此処の丸い部分に魔力を注ぐとな、こっちのが光るんよ。このオレンジが青…いや緑?まぁ、青っぽい色に変わったら充電は終わりやから、普通にセットしたら炊けるで」

使い方まできっちりと詳しく教えてくれ、感謝してもしきれない。炊飯器を浅葱から受け取り、ついでにお米が売っているお店も教えて貰って、私は出口へと向かう。

「色々ありがと!今度、何かご馳走するね!」
「そら楽しみやわ。またいつでも来たってなー炉安」

手を振り、店を出た瞬間、私は無事廊下に出た。そのままくるりと方向転換して厨房へ入ると、フィーズが興味津々といった様子で私の手の中の物を見つめてきた。

「炊飯器、見つかったから次は買い出しに行ってくるね!」

そうして炊飯器をフィーズに預け、私は外出許可を貰いに卿のいる執務室へと向かった。



It asks for a rice cooker and they are 3000 villages?
炊飯器を求めて三千里?



(炊飯器あって良かったー!)(さてさて、何作ろっかな!)

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