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何気ない仕草


「銀八ってさ、エロいよな」

「…いきなり何だっての」


放課後、静まり返った教室で俺と銀時が二人。
俺は小テストの採点という残業、銀時はただの暇つぶし。
空いた席に座り黙々と採点する俺、その俺を観察するように向かい側に座る銀時。

特に会話することもなく時間が経っていた時に、銀時がその沈黙を破った。
…発した言葉の内容は置いといて。


「うん、やっぱ銀八はエロいわ」

「いやだから何なんだいきなり」

「ここ最近さ、ずっと銀八のこと観察してたんだ俺。
そして観察した結果、つまり感想はエロい」

「結果だけじゃなくて理由も述べなさい理由も」


どうでもいいことならそのまま流したが、別にやらしいこともしてねぇのにいきなりエロいと言われるのはなんか納得がいかねぇ。
採点も終わったことだし、きれいにプリントをまとめて片づけてから銀時に視線を戻す。

銀時本人はというとへらへら笑いながら窓際へと移動してグラウンドを眺めていて、俺が帰り支度を終えたのを確認してからさっきの問いに答えた。


「なんつーの、最近暑い日多いじゃん?そんで、まぁ元々銀八はネクタイ緩めてあるけど暑いからってさらにネクタイ緩める時の仕草とか、煙草吸っててたまに無意識に自分の唇舐める仕草とか、他にもあるけどそんな感じのが多くて全体的にエロいなぁと」

「…なんだそりゃ」


つかほんとに俺のこと観察してたのかお前どんだけ暇なんだよ、学生なんだから勉強しろ。
なんて突っ込みを入れようとしたが、その言葉は俺の口からは出てこなかった。

…なんでかって?
んなの、銀時の奴が俺にキスしてきたからに決まってんだろ。

俺と銀時は別に付き合っちゃいない。まして片思いとか、そんなんでもない。
でもコイツは何故か俺にキスしてきた。
理由が分からずに固まってる俺を見て、銀時の奴は悪戯が上手くいったガキのように笑った。

「ふははっ、銀八ってば間抜けな顔」

「…何のつもりだ、お前」

「別に、ただなんとなく。銀八のエロい仕草にムラッときちゃっただけ」


そんなことを言いながら、銀時はまた窓際に移動して外を眺め始めた。
これだから発情期真っ盛りな高校生のガキは…なんて考えながら銀時を見遣れば、夕日に照らされた銀時の髪が綺麗に輝いていて、幼さの残る白い肌も微かに赤みを帯びていた。
それが異様に妖艶で、なんでか俺は目を奪われた。
同じような顔をしているコイツに。

「…エロい」

「ふえ?何か言った?」

「…俺よかお前の方が何倍もエロいって言ったんだよ」


俺の独り言が聞こえたのか銀時がこっちに視線を向ける。角度が変わったからかさっきまでの艶かしい光景は消えちまって、勿体ねぇなと思いながら俺はさっき銀時がしたことと同じことをした。
少し違うのは、単なる唇くっつけてすぐ離すキスじゃないってこと。

顎に手を添えて、身長差もあっから上向かせてゆっくりと口付ける。一瞬じゃない、何秒かそのまま。そして離す時もゆっくりと、そして唇が離れた瞬間、銀時が言ってた俺が無意識に唇をエロく舐めるらしい動作をする。でも舐めるのは自分のじゃない、銀時の唇。

たったそれだけでも、目の前の初な高校生は顔真っ赤。
やっぱガキだな、経験も浅い。


「…仕返しだ」

「ふぁ…な、なんだよ、それ…」


顔真っ赤にしたまま、口元隠して顔を逸らす。
銀時のする何気ない仕草、それは照れると口元隠して視線を逸らすこと。
いつ知ったかは覚えてねぇけど銀時自身は気づいてない。要するに無意識にする仕草。
間近で見たのは初めてだが…結構な破壊力だった。

そして今この時知った銀時の新しい仕草。
ドキドキすると胸辺りの服をぎゅっと握る。
意識し始めると三秒以上相手を直視出来ない。
もっとしてほしいと感じた時、相手の袖を少しだけ掴む。

「…やっぱお前のが断然エロいわ、つか可愛い」

「か、可愛い?男に言うもんじゃねーよ変態教師」

「その変態教師のこと意識し始めた奴に言われたかねーなァ」

「…」


いや…うん。他人の仕草って、あんま興味なかったけど見てると結構いいかもって思えるわ。
それともいいかもって思えんのはコイツだけか。
ま、これからは俺が銀時のこと観察してやろう。
もっと知りてぇから。



END





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