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完璧な万事屋


俺達が初めて出会ったのは、店が人手不足で誰でもいいから人を連れてこいと上の人間から言われてどうしたもんかとさまよっていた時だった。

「万事屋…金ちゃん…?
なんだこの胡散臭いとこ」


途方に暮れて溜め息を漏らしているところに視界に入った看板。
どうにも胡散臭さが滲み出てるけど藁にもすがる思いでそこへと足を運んだ。


「すんませーん」

「はーい、どちら様ですかー」


インターホンを鳴らして声を出してみればすぐに返事は返ってきて、声だけ聞けば地味そうな奴だなとか思ってたら出てきたのは眼鏡の小僧で、

「…すんません間違えました」

いくら諦め半分だからってガキのコイツじゃダメだとその場から立ち去ろうとした。

「なんだなんだぱっつぁん、客か?」

「金さん!」


眼鏡に背を向けて立ち去ろうとした時、部屋の奥から声がして眼鏡が金さんと言った言葉に反応してバッと振り返った。

「…え、アンタが金さん?」

「ん?まぁそうだけど…お客さん何かお困り?」


ホスト顔負けのルックス、営業スマイル、さり気ない気遣い、何から何まで完璧だった。
俺は眼鏡を押し退けて土足のままその男に詰め寄る。
両手をがっちり掴んで、頼み込んだ。


「頼む!助けてくれ!!アンタしかいないんだ!!」

「お、おう。
まぁ話は奥で詳しく聞いてあげるからさ、とりあえず落ち着けって、な?」


いきなりのことで驚きながらもぽんぽんと俺の頭を撫でて笑みを向けてくれるコイツ。
やっぱり完璧だ。

ソファーに座って詳しく話をすれば、すぐに承諾してくれた。
もう色々と男前過ぎて俺が惚れちまいそうだわなんて考えながら、すぐにコイツを連れて戻った。



仕事中、金時は最初に俺にも向けた営業スマイルを一回も絶やすことはなかった。
その日限りの依頼だってのに、真面目にやっていて…しかもその日の売上は金時が一番だった。

すぐに店長に気に入られて、万事屋なんかやめてホストになればいいのにと他の仕事仲間にもちやほやされてる金時は、それをすり抜けて帰る支度を整えた。

そして去り際に、皆に向けてこう言った。

「俺は一つの仕事に就くつもりはないんだわ
縛られるのは嫌いなタチでね、だから俺には万事屋っつー仕事が一番向いてるってわけ。
ま、アレだ、また困ったらいつでも依頼して頂戴よ。
万事屋金さんが何でも解決してやっからさ」


…イケメン過ぎんだろ。
何なの、あのナチュラルなウィンク。
何なの、あの格好いい台詞。

どうして俺は、アイツから目を離せないんだ?
どうして、アイツを追いかけてんだ?


「金時!!」

「ん、どうした?」

「あ、いや…その…」

「…また来いよ、お前からの依頼なら喜んで受けてやっからさ
もちろんその分の報酬は奮発してもらうけどね」


…本当に敵わねぇや、金時には。

初めて会った時から、何かピーンと来るもんがあったけど…それは使えそうってだけじゃなかったみてぇだ。


「金時、俺…」

「話があるならまた明日、な。
そうすりゃ明日も会える」

ゆっくりと近づいて俺の頬に手を添える金時の表情は、言葉を失っちまうほどに穏やかで…

「…あぁ、そうだな。
これでまた明日も会える」

こっちもつられて自然と笑みが零れた。


その日から俺達は、ほぼ毎日会っている。
会う理由なんて、もう考えもしない。
ただ、会いたい、それだけだから。


END



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