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気づけば恋


「なぁなぁ」

「…ん?何、俺?」

「そう、アンタだよ」

「俺になんか用?」


道を歩いてたら、声をかけられた。
また女かと思ったら男で、女に声をかけられることはよくあるけど男に声をかけられたのは久しぶりだった。

そして一番驚いたのは、俺より5つくらいは年下であろう男。要するにまだ未成年の男。道でも尋ねられるのかと思いながら相手の呼びかけに応えれば、そのガキはじっと俺の顔を見ながら真顔でこう言った。


「弟子にしてくれ」

「は?」

「だから、俺をアンタの弟子にしてくれ」


初対面にも関わらずぐいっと詰め寄ってきて、無言のまま俺の返答を待ってる。

こんな微妙な年頃のガキの扱いとか分かんねぇ俺は心の中でまいったなぁと思いながら頭をぼりぼりと掻く。とりあえず適当なこと言ってあしらおうと考えて、にっこりと笑いかけてやりながら尋ねてみた。

「弟子って、何の?」

「セックスのテクニック教えて」

「……」

何なんだ、今の子供ってこんなことすんのか。いや、俺も高校生の時は性欲強かったけどさ。

「悪いけど、他あたってくんないかな」

「やだ、俺はアンタがいいんだ」

「…俺今から仕事だから、ごめんね」


軽く手を振って立ち去ろうとしたら、そいつはめちゃくちゃ泣きそうな顔してて…

マジでさ、そんな顔しないでくんないかな。どう対応すりゃいいのか分かんねぇのよ俺。
そのまま気づかないフリして歩き出そうとしたらガシッと腕を掴まれて、激しく嫌な予感がした。

「一回、一回でいいから抱いてほしい!」

「だーから、他あたれって言ってんだろうが!つーかなんで俺にこだわるんだよ!」

「…アンタに…一目惚れしたから」

「…はい?」


え、コイツ今なんて言った?
一目惚れ?
コイツが?
俺に?

頭の中でさっきの言葉がぐるぐる回って目眩がしながら、とりあえず自分を落ち着かせる。
これは口実だ、何かの間違いだと。

「…気のせいだろ」

「気のせいなんかじゃない」

「いや勘違いだな」

「勘違いでもない、俺は本気だ
俺は、アンタに惚れてんだ、金時」


名前まで知ってんのか。
それ以前にこれは嘘をついてる奴の顔じゃねぇ。

にしても…困った。


俺は、恋をしたことがない。
だから恋ってのがどんなものなのかさっぱり分からなかった。
仕事柄女を口説いたり、女に本気で好かれて告白されたりしたことはあったけど、こんなにも直球で真面目な顔で告白はされたことがなかった。しかもそれが男って。

「…金時?」

「……」


急に黙り込んだ俺を見て不思議そうに覗き込んでくるコイツに、俺は何も言わずに腕を掴んで路地裏へと連れて行った。

「お、おい金時?どうしたんだよ…?」

「俺に抱かれたいんだろ」


人目のつかない所まで連れてくれば、壁に追いやって今度は逆に俺が真顔で顔を近づけて詰め寄る。
突然のことで困惑しながらも急に詰め寄られて明らかに動揺してるコイツに、俺は口付けた。
最初は軽く、短く。
唇が離れて顔を真っ赤にしながら何かを言い出しそうになったところを遮るようにまた口付ける。
今度は深く、長く。
ディープキスもまともにしたことがないらしく、すぐに酸欠になって離してほしいと訴えるように俺の胸板を軽く叩く目の前のガキ。
仕方なく離してやればふにゃふにゃに力が抜けてその場に下を向いて座り込んだ。

「…こんなんでへばってちゃあ抱くなんてまだまだだな」

「だ、って…激し、すぎ…」

「なら、出直してくるこった」


呼吸を整えるように荒く息をする相手を見下ろして冷たく吐き捨ててやれば、大体の奴は諦める。
それでも食いついてくる奴は、俺の気まぐれで相手をしてやる。

さて、コイツはどっちに転ぶかなぁ
なんて考える暇もなくコイツは食いついてきた。


「ま、待って…!!」


ガシッと俺の腕を掴んで、じっと見上げてきた。
その時、俺は狂った。

さっきのキスで口端から垂れたままの涎、
涙が溜まって潤んだ瞳、
眉をハの字にして捨てられた子犬のように見つめてくる視線。
色んな条件が整って、俺の心臓がトクンと高鳴った。


“可愛い”

その言葉だけが頭の中に浮かんだ。

今までたくさんの、色んな女を見てきた俺が、今、目の前の男に見惚れてる。

「それやべぇ」

「…え?」

「お前なら、悪くないかもしんねぇや」

「き、金時…?」


ぐいっと俺の腕を掴んでる手を引っ張って立たせる。
そしてすぐに腰に手を当てて抱き寄せる。

一度狂ってしまえばあとは簡単で、自然と色々欲求が出てくる。

俺は恋ってやつがどんなのかは分かんねぇ。
でも今なら分かるかもしれない。
これが恋ってやつなのかもしれないと、今感じてるから。

「俺のこと、本当に好きなんだよな
後からやっぱり嘘だとか、冗談でしたは通用しねぇよ?」

「あ、当たり前だコノヤロー
一目惚れって、言ったろ…
何度も言わせんなよ恥ずかしいんだから…」

「じゃあ、今からお前は俺のもんな」



一目惚れってすげーな。
俺も一目惚れってやつだったのかな。
まぁ何にせよ、
恋ってのは唐突に、しかも思いもよらぬ時にくるみてぇだわ。
あれだ、通り雨的な感じなんだな、うん。
…あれ?違う?


END


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