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散々な事、でも幸せ


「お前なんか嫌いだ!」


突然叫びだしたこいつは、俺の恋人である銀時くん。

なんで突然叫びだしたかって?
そんなのこっちが聞きたいわ。


「…あの、銀時くん?」

「うっさい、話しかけんな!」

「いやぁ…そう言われてもな…」



なんで素っ裸なんですか。


嫌いだと連呼してくる銀時は何故か裸で、パンツだって履いてないもんだから俺でも何がなんだか分からない。

酔っ払ってんのかと思ったけど、そうじゃないみたいだし……もしかして俺、ヤっちゃった?いやでも俺は裸じゃないし…第一そんな意識もなく恋人を抱くなんて勿体ないことはしない。


「とりあえず…さ、服着ない?」

「……」


ムラムラしてくる前に銀時には服を着てもらわないと困るわけで、床に落ちていた服を手に取れば相手に投げ渡してやった。

怒った顔をしつつ服を着る銀時を見てとりあえずほっとするわけだけども、怒ってる理由は分からないままであって…


「…なぁ銀時、」

「そこに座れ、つか正座しろ」



俺が口を開いたらそれを遮るように銀時が口を開いて、その場に正座させられた。もう何がなんだか分からない俺は銀時に言われるとおりにするしかない。

俺が正座すれば、銀時は目の前に胡坐をかいて座る。何を言ってくるのかとじっと待っていたら…急に抱きついてきた。
咄嗟のことで俺は目をぱちくりさせて固まったままで、銀時の奴は離れる気はないみたいで…どうすりゃいいのこれ。


「…銀時?」

「…………嫌いだ、お前なんか」

「……嫌いのわりにはべったりくっついてるね」

「……嫌いだ」

「…何があったのか話してよ」

「………」


抱きついてきた銀時は俺から離れようとしないで、そのまま俺の肩口に顔を埋めた。俺は何も言わずに背中を撫でてやって、銀時が口を開くのを待ち続ける。

しばらくすると銀時はゆっくりと口を開いた。



「…お前…キス、してた…」

「え?」

「俺、見たんだよ。お前が…道端で女の頬っぺたにキスすんの…」

「……あー……まぁ…した記憶はたくさんあるけど、それがどうしたの?」

「………お前…やっぱ俺なんかじゃなくて綺麗な女の方がいいんだろ…」


何を言いだすのかと思えば……女の方がいいだって。そんなわけないと言おうとしたら、銀時の手が震えてるのを感じた。



きっと不安なんだろう。
自分に自信が持てない奴だから、だから捨てられるんじゃないかって思ってるに違いない。


「銀時」

「……」

「…俺が愛してんのはお前だけだよ。信じられないってんなら、信じるまで傍に居てやるよ」


銀時の頭を撫でながら、優しく話し掛ける。俺のことを分かってくれんのはお前しかいないって分かってもらうために。


「っ…金…時っ…」

「ん、」


さらにキツく抱きついてきた銀時は、泣きそうな顔をしながら何度も口付けてきた。俺は銀時を抱き締めたまま、気の済むまで好きなようにさせてやる。

何度も何度も俺の名前を呼んではキスをして、しばらくすれば銀時はゆっくりと俺から離れてごめんと一言呟いた。

「もう気が済んだ?」

「…おう…」

「そっか、まぁまた不安になるような事あったら今度は遠慮なく言ってな?」

「ん…分かった」

「よし!んじゃ…っ!?」

「…金時…?どうした?」


一件落着したところで立ち上がろうとした俺はすぐに立ち上がるのをやめた。その様子を見た銀時は首を傾げて近寄ってくる。

ヤバイ、そう思った時にはもう手遅れだった。


「ぎぃやぁあああ!!!!」

「わっ…び、びっくりした…な、何なんだよ!」


銀時が俺の膝に手を置いた、それだけでもアウトだった。ずっと正座をしていたために俺の足は痺れていてちょっとした刺激にも反応してしまった。

体勢を崩せたものの足はぴくりとも動かせない。

銀時はゲラゲラ笑って悪戯してこようとするし、俺は必死でそれを阻止する。

そんな奮闘を10分以上も続けた。


俺にとっては散々な事だったけど…銀時は楽しそうに笑っていて、俺の足の痺れが治まった頃には笑いすぎて涙目になってるほどだった。


その姿を見て俺も一緒に笑った。


これが…こうやって一緒に笑い合える事が幸せなんだと、銀時も俺もその時初めて実感した。



因みに、後で聞いた話なんだけども銀時が全裸だったのは、銀時曰く…そうすれば俺しか見なくなると思ったから、らしい。
銀時の考える事はたまによく分からない事がある、今回もそのパターンだったみてぇだわ。


END




あきゅろす。
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