とある短編の共同作業
Y
「それ……単なる噂じゃないの?」
高宮は小さく頷いた。その顔はニヤリと笑っている。
「ハハッまぁ、噂なら噂で構わねぇんだが、本当だったら困るだろ?」
「……本当だったらって…あり得る事なのか?」
「キヒッあぁ、天使は存在する。俺がこう言えばお前は信じられんだろ」
夏喜は、確かにと考える。この夏休み、夏喜は魔術というものを身をもって体験した。その恐ろしさも、力強さも全てを知っている。
高宮の能力は強すぎるため、忘れがちとなるかもしれないが、高宮は魔術師である。
その魔術師である高宮から『天使はいる』と言われたら、それはもう納得するしかない。
「なるほどな」
「だが、それがもしかしたら偽物ということもあり得る」
「偽物って?」
「フンッ、科学的な能力で作られた物だという事だ。この偽物だった場合、俺一人でも問題ねぇんだが」
「?」
「本物だった場合、俺では歯がたちそうにねぇ、そこでテメェの左手を借りてえんだ」
夏喜はチラッと左手に目をやる。
この左手は触れた異能の力を吸収してしまう。高宮の話では、天使は強大の力を奮うらしい。しかし、その天使も左手の指先が触れればそれまでだ。つまり、夏喜は保険といったところである。
「ククッ、その天使によって、強え能力者どもが次から次へと教われてる。中には芯から腐ったようなやつらもいるが、キヒッ、大半がそんなやつらじゃねえ。そんなのが俺は気に入らねぇ」
「……それは俺もだな」
「ニヒッ、間違ってるだろ?」
「あぁ、間違ってる」
「ハンッ、その間違いを直すためにも、『マグネット』を潰す。いいな?」
「話の展開からして、天使を作りだしてるのは『マグネット』って事か」
「ヒヒッ、ご名答」
夏喜は小さく笑った。、そして、大きく表情は変わった。高宮はそれを見て称賛の口笛を吹く。
「よしっ行こう」
夏喜はたちあがった。
「ヒヒッ、ああ」
「その間違い、気に入らん。絶対に正すぞ、高宮」
○
上条瑞樹は学園都市の路地を歩いていた。
店が集まっている部分を外れた所を歩いているため、人通りはすくない。
一番近くにいる人間は10メートル程離れた所にいる。ようするに、道はガラガラなわけで。
「さて、何しようかな……御坂もいないしそのへんをブラブラしてようか」
と適当に一人言を言っていた瑞樹は、何かに気づいた。
妙な物音が路地裏の方から聞こえた。
(なんだ?)
瑞樹は僅かに興味を抱き、そこを覗き込む。
その時。
「うおわ!」
路地裏から何かが飛び出してきた。瑞樹の体はそれに直撃され、その力に従うまま、路面に倒された。
「っ…痛っ!」
瑞樹は後頭部を強打した。くそっなんなんだよ!と飛び出して来たものに怒りを露にしようとしたが、その気はなくなった。
瑞樹の体に乗っているのは怯えた顔をしている女の子だった。
道路の曲がり門で女の子と激突、という展開に類似しているが、完全にそんな空気ではない。
瑞樹の体の上で後ろを振り返り、女の子の表情はさらに恐怖に染まる。
女の子は瑞樹に話かける。
「た、助けて下さい!」
「は?」
女の子は瑞樹の体から飛び退くと、瑞樹の手をひいて立たせた。
それから素早く瑞樹の背中に隠れる。
「は?は?」
なにがなんだか、瑞樹には三秒程わからなかったが、五秒後には理解できた。
この女の子は追われていたのだ。
この巨大な手に。
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