とある短編の共同作業
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暫くそれを眺めていると、二人は慌ただしく店から出てていった。
瑞樹と夏喜の目が合ったがそれはほんの一瞬の出来事だった。
(もしかして、いまのヤツはどっちかの彼氏だったんじゃ……それで怒って連れていったとか……まぁいいや、とりあえず御坂の彼氏じゃない事を願うしかないな)
とりあえず邪魔者はいなくなった。
瑞樹は視線と足を美琴と穂邑の座っている席へ向ける。
一歩一歩踏みしめるように、歩みを進める。少し体が堅いように見えるのは仕方ない事だろう。
「う、うぉーい、御坂〜」
そして勇気を出して声を出した。美琴はビクリッと肩を振るわせて、大きく咳き込んでしまう。
どうやら驚いた拍子に飲んでいたジュースか何かが気管に入ってしまったようだ。
「な……アンタ」
美琴は振り返って驚く。そして穂邑は興味深そうに瑞樹を眺めていた。
「瑞樹くんだね?話は聞いてるし。ちょっと前にレベル5になったらしいじゃない?」
「あ、どうも……御坂、この人は?」
「あぁ、コイツは先輩らしからぬ先輩?一応寸止めの第三位で常盤台の出身よ」
美琴に紹介された穂邑は、よろしく〜とニコニコしながら手を振っている。
「寸止めって……あの寸止め?スゲェ!」
「それ、君が言うとちょっとイヤミに聞こえてしまうし。ね?瑞樹ちゃん?」
「っ……女みたいな呼び方をしないで頂きたい……」
「え〜?瑞樹ちゃん瑞樹ちゃん瑞樹ちゃん瑞樹ちゃん瑞樹ちゃ〜ん」
「ぐ………」
美琴は、なんだこれは、と頭を抱えた。
「それにしても瑞樹ちゃん、君、寸止めにいたっけ?いなかったよね?もしかして、寸止めをショートカットしちゃった?」
「あぁ……そうみたいだ」
穂邑は一瞬ピキッと固まると、再び連呼を始めた。
「みーちゃんみーちゃんみーちゃんみーちゃんみーちゃんみーちゃんみーちゃん」
「だああぁ!!それ、もう完全に女だからやめてくださぁあい!ってかもはや猫にも聞こえてきた!!」
美琴はガツンっと机に頭を叩きつけた。
ついていけない。特に穂邑には。
「あーもう!私帰るわよ?!疲れた」
美琴は早足で出口に向かう。瑞樹が固まった。
「え?もう?」
「だって食べちゃったもん。もういる理由はないわよ」
「ちょ、ちょい待ち」
「なによ?」
「さっきここにいたパイナップルみたいな頭のヤツはだれ?」
美琴はキョトンとした。そして瑞樹の後ろに座っている穂邑を見て、
「穂邑の彼氏」
そう言った瞬間、穂邑は口に含んだジュースを吹き出しそうになる。
かろうじて惨事を避けた穂邑だが、その顔は、なんといったらいいかわからないような表情をしていた。とりあえず言うならばすごい顔、だ。
「え……そうなんだ」
後ろから放たれる、ちがーう!という声は瑞樹には届いていない。
「じゃあ、後から来た悪そうな人は?」
「高宮隆治。寸止めの第1位の高宮隆治よ」
「お前とどういう関係?」
「はい?」
美琴は目をひそめた。そしてこの表情は瑞樹に勇気を与える。
確信した。あの二人の少年はどちらも美琴の彼氏ではなかった。一人は穂邑の彼氏で(違う)もう一人は完全に無関係。
彼は心の中でガッツポーズをする。
「へぇ…そうなんだ。ありがとう御坂。またな」
「?……ん、また」
瑞樹の心の中は清々しいほどに晴れ渡っていた。
彼は陽気に一歩を踏み出す。ファーストフード店の外へ。
学園都市の街の中へ、と。
しかし、穂邑はうなだれていた。上条瑞樹はなにか勘違いをしたまま行ってしまった。
彼の姿はもう見えない。
どうしよう、なんとかしなければ、と思う彼女だったが、もうなんともしようがなかった。
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