〜龍と刀×守護の鬼〜 黒川町side『初・案内』 ***** ポケットに忍ばせておいた携帯電話が鳴り出す。 「はい、分かりました。では後ほど」 ものの十秒程の会話。内容は至ってシンプルな物だった。 男の声で、もうすぐ着きますのでよろしくお願いしますだけ。 「沙奈ー、そろそろ来るっぽいから仕事の最終確認をしようと思うんだけど」 「いらないいらない。適当にやってれば終わるでしょ」 「……なあ、やる気ある?」 沙奈は少し唸ってから即答した。 「うーん、あんま乗り気じゃないけど、ちゃんとやるから大丈夫」 「んじゃ、その言葉を信じて。とりあえず、奇神とかそういうのは言わないようにな」 外からは車らしきエンジン音、すぐ後に騒ぎ声が聞こえてくる。 八割方が守護棟の感想だろう。 「結構いるわね〜」 「これで半分だってさ。さて、出迎えに行かないと」 守護棟の入り口へと向かう二人。 これから二人の守護棟案内が始まる。 ***** 一組目の案内が終了した。 たかが案内、と楽観視していた沙奈は机に突っ伏している。 「うぅ……何でこんなに疲れるのよ!氷柱!どうにかしなさい!」 挙げ句の果てに一人で怒りをぶちまけ始めた。 「無理言うなよ……俺だって疲れてんだからさ」 氷柱も同じように疲れているらしく、椅子にもたれ掛かる。 「ねえ、次のってちょっと時間遅れるんでしょ?少しくらいなら、寝ても大丈夫よね」 よもや、町長の長話のせいで遅れているなんて予想も付かないだろう。沙奈にとっては好都合みたいだが。 「ああ、そうみたいだけど……また寝るのかよ」 「仮眠よ、仮眠!寝てたら起こして」 それだけ言い終えると、すぐに寝息を立てて眠る沙奈。 「はあ……好き勝手だよな、こいつ。俺も寝るかな」 ***** それから氷柱が起きたのは一時間程してからだった。 自身の携帯電話の着信。 「ぁ、はい……分かりました……」 寝起きで頭が働かないながらも、それなりに対応出来たと思う。 横目で、気持ちよさそうに眠っている、眠り姫こと沙奈に声を掛ける。いや、掛けようとした。 「危うく死ぬとこだった……」 前の記憶が鮮明に思い出される。起こそうとした時に殺されかけたのだ。 「少々手荒だけど……有効法はこれなんだよな」 所持アイテム、携帯電話。攻撃方法は大音量によるダメージ。これしかないと言い切れる。 耳元はさすがに可哀想なので、少し遠めに。 「良しっ……準備は完了だ」 ボタンを押してから曲が流れるまでのタイムラグは、約一秒半。距離を取るには充分な時間だ。 「ゴメン!死にたくないんだ」 押し、守護士の風技をここぞとばかりに駆使。そして沙奈の後方に。 曲が流れる……はずだった。正確には、曲が流れたのは一秒もあっただろうかという位の時間。 「あれ?音量小さかったかな」 そう言って戻ってみると、そこに沙奈の姿は無かった。 とてつもなく嫌な予感。 氷柱には、何故か後ろを振り返ってはいけない気がした。直感的なモノがそう語っているのだ。 「……」 「えーっと……どうして後ろに立っているんですか、沙奈さんは」 「−−は?」 良く聞き取れなかったので、意を決して振り返る。 そこには、怒りのオーラを身に纏った沙奈が立っていた。 「何か言い残したい事はあるかしら?」 「いや、ちょっと待って!目が笑ってない!お前を起こしてやったんだぞ?何で怒られるんだよ!」 「私はね?仮眠をするって言ったの。つまり、氷柱が電話をもらった時点で起きてたって訳。氷柱がどんな起こし方をするのか試してみたら……」 ゆらりと一歩前に進む。 氷柱の心にあるのは恐怖心のみ。 「あー、それはだな。前の経験上からいった最終的なモノなんだよ−−ごめんなさい!マジで!グーは痛いだろ!?」 「じゃあ、次は普通に起こしてよね」 それだけを言い放って、問答無用に氷柱の頬を殴った。笑顔のまま。 二人がそんなバカ騒ぎをしている間に、見学の学生たちが守護棟前に着いていたのだが、二人は当然そんな事を知る由も無かった。 [*前へ][次へ#] |