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〜龍と刀×守護の鬼〜
黒川町side
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所代わり黒川町守護棟。
今日も特に大きな騒ぎもなく、平々凡々な一日だった。
騒ぎなど無い方がよっぽど気が楽で良いのだが。しかし、そうも言ってられないのが守護士という役職である。

「氷柱君、ちょっと良いですか?良くなくても話ますが」

この青年は、夏海 蛍(ナツミ ケイ)。この守護棟の棟長だ。
話しかけられたのは氷柱 聖(ツララ ヒジリ)。彼もこの町の守護士。

「何でしょう?」

「すぐに発たなければならないので、手短に言います。しっかりと、頭に入れておいて下さいね」

氷柱は何事だ、と思いながら自然に真剣な顔付きになった。
それから蛍は氷柱に質問の隙すら与えずに一気に説明をする。
次第に氷柱の表情が緩くなっていくのは気のせいだろうか。

「−−という事なんですが、引き受けて下さりますか?」

「別に、良いですけど……俺なんかより蛍さんとかがやった方が確実じゃないですか」

「出来ればそうしたいですがね。皆さん、どこかしらに行かなきゃならないんですよ」

小さく短く笑い、では、と右手を軽く振って出発してしまった。

「逃げたよ……、どちらにしろ一人でやらされるんだろうな……、まあ一応連絡だけはしとこう」

こちらはとても深い溜め息を吐きながら、ポケットの携帯電話を取り出す。

−−、五分後。

『只今電話に出られません……』

−−、十分後。

「……長い。また寝てんのか?んー後でも良いよな。起こしに行くのは気が引けるし」

数コールしてみたが、電話の相手は一向に出る気配が無いので、あちらから掛けて貰おうということにした。

「仕方ない……マニュアルでも見て時間潰すか」

蛍の言った通り、机の上にはマニュアルが二つ。氷柱ともう一人の分だ。

「宿泊研修……何を見に来るんだ?」

蛍から受けたのは、とある学校から守護棟に見学をしに来るので、内部を案内しろというものだった。

「奇神(キシン)を知らないから、そういうのは適当にはぐらかして下さい……このマニュアルの方が適当だろ。……はぐらかすって言ってもな〜」

この町ではそういった奇神を始めとした伝説上、架空の生物を認識している。
しかし、研修に来る街の学生の大半はそういうことは存在しない、所詮は架空のおとぎ話である、と割り切ってしまっているのだ。

だから、無い知識を無駄に与える位だったら、その話題に触れないようにとの事。触らぬ神に祟りなしという言葉があるくらいだ。

「ん、電話か」

机に放り出していた携帯電話から単調なメロディーが流れ出す。おそらく先程の電話の相手であろう。

『ふわ……何?起きてみたら携帯の着信履歴、スゴい事になってんだけど……嫌がらせ?』

寝起きでかなり機嫌が優れないようだ。あまり長引かせるのは身に危険が及ぶと判断した氷柱は、蛍から受けた説明を一言にまとめて話した。

「守護棟の案内をしろだってさ」

『……はあ?案内?誰によ?』

短すぎた。主語を抜いて話すとこうなってしまう事を学べた氷柱は少しだけ得をしたのだと思う。

「学生さん」

『何で?』

一言で返されてしまった。やはりしっかりと説明をした方が良いらしい。
今度はきっちり中身まで説明をしてやる事にした。

『……つまり、学生さんが来るからここを案内しろってことでしょ?簡単じゃない。みんなで手分けすれば』

「だからさっきからそう言ってたんだよ……ん?みんなって言ったか?今、俺と沙奈しか居ないぜ?」

しばしの沈黙。
その後聞こえてきたのは驚きの悲鳴。

「何驚いてんだよ?俺たちがここに残ったのはニールさんが配慮した、とか良く分からないこと言ってたけど……おい、沙奈?聞いてるかー?」

『き、聞いてるわよ!話は終わったんでしょ!?切るから!』

慌ただしく通話を切られてしまった。

「なんだったんだあいつ?いや、それとも俺がなんか言った?はあ……分っかんねえ」

氷柱も自室に戻り休憩を取ることにした。


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あきゅろす。
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