〜龍と刀×守護の鬼〜 『龍と鬼』 男は強かった。 陽の魔術、氷柱の風技を障壁で防ぎ、白銀と斧に依る斬撃はその硬質な皮膚で守る。 男が、無造作に拳を繰り出した。魔力も術式も込めない、力任せの攻撃。 陽と氷柱は即座に飛び退く。 拳の当たった地面はことごとく穴が開き、土とも岩とも見て取れない物体が吹き荒れる。 その土煙も消え去らぬ内に、男は再び拳を裏拳のように振るう。土煙ごと二人を薙ぎ払い、それぞれ地面に叩きつける。 「ククッ……この程度なのか?やはりこの作品に勝るモノなど存在しない!」 強さに惚れるように周りを見渡す男。 「龍族がこれで終わると言うのか……守護士の鬼とやらも所詮は名ばかりか」 男の意識と混同している魔族は、挑発とも取れる事を口にする。 「本当に、終わりらしい。一思いにこの町ごと火の海にするのも−−悪くないな。手伝いよろしく頼む」 魔族と男の意識が目まぐるしく変わり、会話まで交わせるまでに同調しているみたいだ。 「焼き払わんとする古の−−同調率、百二十パーセント−−其れは弓矢−−魔力増強」 両腕を胸の前に。そこに展開される魔法陣、男の黒い腕を走る赤黒い血管のような線は科学の産物だろう。 脈打つ魔法陣のその先。 「なあ、さっき何て言ったんだ?」 「奇遇だな。俺にもちょっと聞こえなかった」 自身を中心にしたクレーターにゆらりと立ち上がる二つの人影。 「射抜け!−−射出!」 声が重なり、魔術が発動した。魔法陣から放たれるのは矢の形をした黒い光。 それが標的目掛けて頭上より降り注ぐ。 「龍族が、何だって?」 「俺が名ばかり?」 降り注ぐ矢を、その向こうに居る男を怒りを込めた眼差しで睨みつける。 二人のすぐ真上に迫り来る矢。 それらが豪雨のごとく二人を包む。そして、跡形も無く串刺しになっているはずだ。 「……まさかあれだけの数を!?」 男は目を見張った。完璧に、絶対に直撃したのに、二人は何事も無かったかのように悠然と立っている。 そこに舞う、赤と蒼の二色の火の粉。 「見くびってもらっちゃ困るんだよ……!」 「そうだ……言いたい事がある」 一歩一歩を踏みしめ、次第に早足に。 そして、男が気付いた頃にはもう目の前に二人の姿が。 「龍族を−−」 「守護士を−−」 振り下ろされた斧と白銀によって、障壁はガラスのように砕け散り、男を守る物は硬質な皮膚だけとなる。 「「ナメるんじゃねえぞ!!」」 言葉が重なったこの瞬間、男の意識は揺らいだ。男の心に恐怖が生まれたから。 「術ってのはイメージが大事らしいからな……受けてみろよ!」 白銀から真っ赤な炎が勢い良く噴射され、巨大な刀として形成される。 そして、周りに熱気を振りまきながら高く持ち上げられた。 「一撃だ。この魔力を全力でぶつけろ!」 手元の白銀から声が飛ぶ。言われなくても、陽は最初からそのつもりだ。 「はああぁ!」 炎の燃え盛る刀を、今持てる力全てを使って振り下ろす。 轟々と空を斬りながら男へと迫り、直撃。 ガリガリと火花を散らしているのは魔術で作り上げた障壁。しかしそれも炎の刀に押され、今にも破れそうだ。 「くっ……同調率低下、まずい−−どこにこんな力を隠していたのだ、混血よ!」 焦りが見え出す二つの声。障壁にはひびが目立ち、耐えきれなくなったのか、男の足が後退している。 「よそ見は……禁物だぜ!」 後方より迫る、氷柱の蒼い炎の弾。数も大きさも、先程男の放った矢とは比べ物にならないが密度が違う。蒼の色が濃い。目で見て分かるくらいに。 目の前の攻撃を防ぐのに精一杯だった男は、急な出来事に対応しきれなかった。 障壁を作るのが遅れ、何発かの弾がその体に着弾。 「今だ、陽!」 「分かってる!っ……壊れろぉ!」 その一瞬を突き、炎の刀を縦に引き抜く。 ガラスが割れるような音を立て、障壁が崩れる。破片が舞うが、それもすぐに消滅。 「障壁、再構築開始!−−ダメだ、間に合わん!全身に魔力を!」 慌てる男と魔族。 「今度こそ終わりだ、鬼遊科学!」 キーホルダーから武器を選択。選んだのは、敵を断つための日本刀。 飛び上がり、正面から真横に一閃。 蒼色の煌めきが男を上半身と下半身に分離させた。 「同調、零……パーセン、ト」 居場所を失った体が地面に落ち、漆黒の光を出しながら蒸発するように消えていく。 その場に倒れた男、幸い、自身の体は真っ二つになっていないようだ。 「逃がさないぜ。魔族」 男から吹き上がる黒い気体、実体を無くした魔族だ。実体を無くしたため、言葉を発する事も出来ない。 それを、白銀で切り裂く。 「−−!」 魔族は、声無き悲鳴を上げたのだと思う。少なくとも陽には、別の言葉聞こえたが。 「また会う事になるだろう、か……聞き間違いだと良いけどな」 陽にだけ聞こえた意味深な魔族の言葉。 焼け野原になってしまった町の一部を見渡す。 そうしていると、向こうから氷柱が走ってくるのが見えた。 [*前へ][次へ#] |